法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「日本の新聞記者でよかった」と産経抄はいうけれど、赤報隊事件だけでなく、長井健司氏の銃殺事件もあるよね……

酩酊したかのような与太話が産経抄に掲載されることは珍しくない。それでも今回はひどすぎる。
【産経抄】日本を貶める日本人をあぶりだせ 10月19日(1/2ページ) - 産経ニュース

 日本の新聞記者でよかった、と思わずにはいられない。地中海の島国マルタで、地元の女性記者が殺害された。車に爆弾を仕掛けるという残虐な犯行である。彼女は「タックスヘイブン」(租税回避地)をめぐる「パナマ文書」の報道に携わり、政治家の不正資金疑惑を追及していた。マルタとはどれほど恐ろしい国か。

ミャンマー民主化デモで、路上でビデオ撮影していたカメラマンの長井氏が射殺されてから、ちょうど十年目だ。
http://www.asahi.com/articles/ASK9T5J33K9TUHBI011.html

デモではジャーナリストの長井健司さん(当時50)が射殺された。会場には長井さんの写真入りの布が用意され、多くの人がメッセージを書き込んだ。

「日本の新聞記者」であっても、いくらでも危険な地域で取材する機会はあるはずだ。
せめて巨悪を追及していたジャーナリズムにエールを送ることくらいはできないのか。


さらに産経抄報道の自由度ランキングへの疑惑を語るが、たいした根拠はない。

 ▼今年4月に発表された「報道の自由度ランキング」では47位、なんと72位の日本よりはるかに上位だった。ランキングを作ったのは、パリに本部を置く国際ジャーナリスト組織である。日本に対する強い偏見がうかがえる。

この文章からは、あたかも日本が常にランキングが下位であるかのような錯覚をまねきかねない。
もちろん状況によって何度となく変動するのがランキングだ。かつての日本は欧米の主要国と前後する順位だった。記者クラブ外にも取材がひらかれた2009年から2012年にかけては、米英よりも高くなったほどだ。そもそも日本が60位より低くなったのは近年が初めてだという。
「報道の自由度」ランキング、日本はなぜ61位に後退したのか? | 日本大学大学院新聞学研究科

2008年までの間は欧米の先進諸国、アメリカやイギリス、フランス、ドイツと変わらない中堅層やや上位を保っていたが、民主党政権誕生以降、政権交代の実現という社会的状況の変化や、政府による記者会見の一部オープン化もあり、2010年には最高の11位を獲得している。

2011年の東日本大震災福島第一原発事故の発生の後、2012年のランキングでは22位に下落、2013年には53位、2014年には59位を記録した。そして今年2015年にはついに過去最低の61位までランキングを下げる結果となった。

自由度ランキングは、権力者による圧力だけではなく、報道側の抵抗も加味されるという。つまり権力におもねろうとする報道が増えるほど、記者が明確な危険にあうまでもなく、ランキングは下がっていく。


さらに産経抄は、権力の疑惑や問題を追及することへの反発をあらわにしていく。

 ▼特定の政治的主張だけを取り上げる、国連教育科学文化機関(ユネスコ)には、困ったものだ。いよいよ問題だらけの慰安婦関連資料の登録の可能性が強まっている。田北真樹子記者は昨日、登録されたら脱退して組織の抜本改革を突きつけろ、と書いていた。
 ▼そもそも国連を舞台に、実態からかけ離れた慰安婦像を世界にばらまいたのは、日本人活動家だった。何ということをしてくれたのか。

実態からかけ離れた慰安婦像を国連でばらまいた活動家といえば、先ごろ自民党から公認された杉田水脈氏のことではないだろうか。
杉田水脈ブログの「【日本国の恥晒し】流石に怖かった今回の国連」というエントリタイトルが自己紹介としか読めない - 法華狼の日記
言及されている田北氏も、記名記事を見るかぎり、一報道を攻撃する日本政府へ追従しているようにしか読めない。
【慰安婦問題】「朝日新聞が『捏造』を報道」「20万人も混同」…政府が国連委でようやく反論 (1/2ページ) - 産経ニュース

杉山晋輔外務審議官は強制連行を裏付ける資料がなかったことを説明するとともに、強制連行説は「慰安婦狩り」に関わったとする吉田清治氏(故人)による「捏造(ねつぞう)」で、朝日新聞が吉田氏の本を大きく報じたことが「国際社会にも大きな影響を与えた」と指摘した。また、「慰安婦20万人」についても朝日新聞が女子挺身隊を「混同した」と説明した。

問題だらけの政治的主張が嫌なのであれば、日本の歴史学会が連名で出した声明を採用すればいいのではなかろうか。
「慰安婦」問題に関する日本の歴史学会・歴史教育者団体の声明 - 東京歴史科学研究会

日本軍が「慰安婦」の強制連行に関与したことを認めた日本政府の見解表明(河野談話)は、当該記事やそのもととなった吉田清治による証言を根拠になされたものではない。したがって、記事の取り消しによって河野談話の根拠が崩れたことにはならない。強制連行された「慰安婦」の存在は、これまでに多くの史料と研究によって実証されてきた。強制連行は、たんに強引に連れ去る事例(インドネシア・スマラン、中国・山西省で確認、朝鮮半島にも多くの証言が存在)に限定されるべきではなく、本人の意思に反した連行の事例(朝鮮半島をはじめ広域で確認)も含むものと理解されるべきである。

少なくとも朝日新聞固有の誤報と呼べるものが存在しないことは、元朝日記者の植村隆氏との対談で、産経記者も認めたことのはずだ。
植村隆インタビュー詳報において、産経側の主張が自壊していくまで - 法華狼の日記
この植村氏が脅迫を受けて大学を追われたことを、産経も上記対談で認めているはずではないのか。マルタの事件はけして他人事ではない。