法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ロング・エンゲージメント』

ジャン=ピエール=ジュネ監督による、第一次世界大戦を舞台にした映画。原作はセバスチャン=シャプリゾ『長い日曜日』。
軍役逃れの故意自傷を疑われて戦時中に消された5人の兵士と、戦後に恋人の兵士が生きていると信じて追いかけるヒロインの、過去と現在の2視点で描かれる。過去の悲惨な戦場が一面の美しい草原へ変わっている叙情的な場面など、2視点をいかした戦時中と戦後の落差が印象的。


しっかり塹壕を描写する映画は名作という、個人的な実感がある。この作品も、過去編の膝まで泥水にまみれた塹壕の描写が素晴らしい。第一次世界大戦らしく戦車はほとんど登場せず、基本的に塹壕から歩兵が突撃する一進一退の展開を見せる。それでいて発展途上の航空機が意外な重要性をしめていたところも良かった。
もちろん作品全体は軍の規律から様々な理由で脱落した兵士達を描く物語であり、あくまで戦場描写は背景にすぎないが、デフォルメされた戦場の生活感は充分にあり、見所となっていた。さらには軍の規律から脱落したがゆえの、味方から同情されたりうとまれたりといった細かい描写が重要になってくるあたりが、戦争映画としての個性にもなっている。


戦後の物語は、身体に障碍を持つヒロインを始めとして同胞のはずの社会に虐げられた者達の視点で描かれる。小悪党ですら密やかな誠実さを伝える。そうして小さな善意が繋がっていって1つの奇跡にたどりつく結末には、確かに感動させられた。
しかし監督の作風であるデフォルメされた世界観が、戦争映画を描くには食い合わせの悪さを感じたところもある。兵士の何人かが助かった理由には古典的なトリックもあってミステリ映画として楽しむこともできるが、ややトリッキーな演出が多くて、作為が鼻につくところもあった。
何より、奇跡が成り立つために様々な人々の死が過程にあったのに、祝福されきっていると感じている結末のヒロインには違和感が残った*1。もちろん一時は奇跡に喜び浮き立ってもいいとは思うのだが、背景に描かれている出来事の苦さも改めて結末で向かい合ってほしかったところ。

*1:監督の作風からすれば、主人公の視野が最終的に映画の全てと同じになる展開は予想するべきだったかもしれない。偏見かもしれないが、オシャレ映画とされる作品の近視眼さに通底すると感じた。