法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

虚構表現規制で、ふと思い出したアニメの年齢制限

先日に可決された都条例で問題視されている部分は、あくまでゾーニングすべき基準が恣意的すぎると指摘されているわけで、全面的に表現が禁止されるわけではない。少なくとも建前では。


それと関係あるのかないのか自分でもよくわからない話をつらつらと。
先日に「WEBアニメスタイル」で再開した「もっとアニメを観よう」企画。選者が適当に選んで簡単なコメントをつけていくという内容で*1、以前のような温故知新の楽しみは薄い。
それでも色々な名作アニメの名前を知ったり見返したりすることでの興奮はある。そして第一回の小黒祐一郎編集長が「アニメファン初心者に観てもらいたい25本」として選んだリストが下記。
WEBアニメスタイル | もっとアニメを観よう2011 第1回 小黒祐一郎が選んだ「アニメファン初心者に観てもらいたい25本」

1. 劇場『太陽の王子 ホルスの大冒険』
2. 劇場『銀河鉄道999』
3. 劇場『エースをねらえ!
4. 劇場『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか
5. 劇場『銀河鉄道の夜
6. 劇場『GHOST IN THE SHELL攻殻機動隊)』
7. 劇場『人狼
8. 劇場『千年女優
9. 劇場『MINDGAME』
10. 劇場『時をかける少女
11. 劇場『ストレンヂア 無皇刃譚』
12. 劇場『Colorful』
13. TV『ルパン三世[旧]』
14. TV『アルプスの少女 ハイジ』(全話)
15. TV『宇宙戦艦ヤマト』(全話)
16. TV『ガンバの冒険』(全話)
17. TV『未来少年コナン』(全話)
18. 劇場『機動戦士ガンダム』『同II 哀・戦士編』
『同III めぐりあい宇宙 編』
19. TV&劇場版『新世紀エヴァンゲリオン』(全話)
20. OVA『超神伝説 うろつき童子
21. OVA『妖獣都市』
22. OVA『フリクリ
23. 劇場『Manie‐Manie 迷宮物語
24. TV『化物語
25. TV『涼宮ハルヒの憂鬱

編集長自身も説明しているように、ここで想定されている「初心者」は18禁作品を視聴できる年齢層だ。

『超神伝説 うろつき童子』は18禁作品であるし、観る人を選ぶ作品ではあるけれど、できることなら押さえてほしい。

しかし『超神伝説 うろつき童子』を除けば、子供でも見られるリストかというと、そうでもない。映画には映倫による細かな年齢制限があり、『人狼』『ストレンヂア 無皇刃譚』は保護者の指導する努力が求められるPG12作品とされている。若い初心者が1人で見ることはできない作品が他にもリストへ並んでいるわけ。
劇場公開もされた『妖獣都市』はベッドシーンもありながら全年齢で視聴可能と思えば不思議なもので、『MIND GAME』も田中栄子プロデューサーによると、年齢制限がかけられるおそれがあったといい、やや恣意的なものも感じなくはない。
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原作にはセックスや暴力シーンが出てくるが、アニメーションではこれらは厳禁だ。そこで実写を組み入れることで、“この映画は実写作品です”として通そうかとも思った。こうした曲折を経てようやく作品になった。しかし、出来上がっても映倫(映画倫理管理委員会)が通らなければロードショウ公開はできない。最初は“18禁”(18歳以上のみ入場可能な年齢制限作品、R18)になるかと覚悟していたが、実際に映倫に持ち込んで担当者に見せたら、その場で意外なほど盛り上がって結局“一般”(年齢制限なし)で通った。これが作品に対する自信にもつながった

しかし、実際に両方へ目を通した者からすれば年齢制限はしかたないと思うし、同時にアニメを知るにあたって納得できる選定でもある。
どちらも、肉体的に強く精神的に素朴な主人公が組織から阻害されつつ守るべきものを見いだす単純な物語で、いかにも時代がかった日本的な世界にとどまりながら、アニメでしか表現しえない瞬間を映し出す。何かの間違いで地上波ゴールデンに放映されて阿鼻叫喚の地獄絵図を茶の間に展開してほしいと思うほど魅力的だ。


むろん、保護者の指導があれば年齢を別として見てもいいわけで、初心者が教養として見ると考えれば障害にならないと考えることもできる。
しかし逆に、PG12になった原因であろう描写は、あまり予告などからはうかがえない。退廃的な暴力であったり刺激的な官能であったり、それらは必然性を持ちつつも予想と別個に想像以上に展開される。PG12というレーティングは、それらの描写を予想させてしまう一因となりうる。
最初から人の生死がかかった戦闘物と明らかな『人狼』『ストレンヂア 無皇刃譚』ならまだいいが、もしファンタジー風味に見せていた『MIND GAME』に年齢制限がかけられていれば、ある種のネタバレとして作用してしまったかもしれない。たとえば童話に見せかけたホラーなど、どんでん返しが機能しなくなる、というようなことを考えたりする。


念のため、年齢制限が不要と主張したいわけではない。ただ、作品の内容以外が評価にかかわってくるのは、色々と難儀な面もあるのだなと思うのだ。極端な話、作者の名前や、実話であるか虚構であるかで作品の予想がついてしまう*2
世にあふれる無数の作品を選択するにあたって、作品内容以外の情報を選択理由にしなければならないということは承知した上で、予備情報を持たず作品から新鮮な驚きを受け取りたいと願う。なんとわがままなことと思いながら、つらつらと考えることをやめられないでいる。
つまるところ、送り手は作品内容について考え抜かなければならないように、ゾーニングをふくむ内容以外の情報についても考え抜いていかないと内容も受け手にきちんと伝わらないことがある、ということになるだろうか。

*1:中では西田亜沙子回に力が入っていたくらいか。http://style.fm/as/04_watch/2011/008.shtmlしかし『ブラック★ロックシューター』を推薦するコメントで「あとこれをみてアガる奴は『BIRTH』を観るときっと楽しめると思うよ!! 」というのは、両方を知っている者からすると、あまりにも当を得すぎていて逆に困る。

*2:逆に、そうした予断を逆手にとる作品もあるのだが。