法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

NHKがアンケート集計した『ニッポンアニメ100』の雑感と、ランクインしていない8作品

日本アニメの百周年を記念して、NHKが視聴者のWEB投票で「ベスト・アニメ100」を決定していた。
http://www.nhk.or.jp/anime/anime100/
もちろん異論も多々あるようだが*1、TV局の集計したベスト作品としては、相当に新しい作品ばかりランキングしているだけでも貴重だと感じられる。
http://www.nhk.or.jp/anime/anime100/ani_report/

1位

TIGER & BUNNY2011年
2位

劇場版 TIGER & BUNNY The Rising2014年
3位

魔法少女まどか☆マギカ2011年
4位

ラブライブ! (TVアニメ1期)2013年
5位

ラブライブ! (TVアニメ2期)2014年
6位

劇場版 TIGER & BUNNY The Beginning2012年
7位

コードギアス 反逆のルルーシュ2006年
8位

カードキャプターさくら1998年
9位

ラブライブ! The School Idol Movie2015年
10位

おそ松さん2015年

念のため、さすがに同一シリーズで物語も連続している作品から連続的に上位に顔を出すというのは、ランキングとして作品のバラエティを楽しむにおいて問題を感じずにはいられない。
6位などは半分ほど1位の総集編であるし、7位の『コードギアス反逆のルルーシュ』は延期後にスペシャルとして放映された第25話と第26話が別作品として下位にランクインしている。
特別放映されるのも、13位の『銀河英雄伝説』はOVA第26話と劇場版第1作だったり、18位の『デジモンアドベンチャー』ではなく302位の劇場版『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』だったりと、作品集計の難しさを感じさせる。
http://www.nhk.or.jp/anime/anime100/selection/


とはいえ、よく民放がやっている視聴者から単純に意見をつのる方式では、どうしても作品ごとの知名度勝負になってしまう。有名作品ばかりがくりかえしランクインして、最新の作品がとりこぼされがちという問題がどうしてもあった。
今回のNHKのランキングは、くりかえし投票できたり、組織票を集めやすいアンケート方式だからこそ、比較的にアニメをよく見ている熱狂的なファンが多くついた作品がランクインして、物珍しさと新しさがある。


ランクインした個々の作品も、それぞれの見どころがないではない。
たとえば『TIGER & BUNNY』は高年齢のヒーローを題材としたTVアニメとして久々のヒット作であり*2、等身大ヒーローを3DCGで描写してアクションが違和感なく受けいれられた嚆矢でもある。TV版は設定の魅力に比べると期待外れの終盤だったものの、全体をブラッシュアップさせた2位の劇場版は完成度が高い*3
ラブライブ!』もアイドルアニメのヒットを象徴する作品のひとつとしては、上位にランクインしてもおかしくはない。雑誌の読者参加企画にはじまるメディアミックス作品という面白味もある*4
コードギアス 反逆のルルーシュ』は人気漫画家にキャラクターデザイン原案を求めるというオリジナルTVアニメの潮流をつくりだした作品として、『TIGER & BUNNY』の原型と見ることもできるだろう*5
100位にもれた作品まで目をとおせば、かなりのアニメファンでも納得するような作品がならんでいる。


さらに、歴史的に重要な作品として、アニメ評論家の氷川竜介氏による解説がつけられた年表も公開されている。補助線としては充分だろう。
http://www.nhk.or.jp/anime/anime100/article/chronology.html
そのうえで、400位までランキングを見ても掲載されていない、現代アニメにおいて重要な潮流をしめる作品をいくつか補足したい。


魔法少女プリティサミーOVA版とTVアニメ版がある。魔法少女アニメが冬の時代だった時、マニア向け人気アニメのスピンオフとして制作された、魔法少女のイメージを自覚的にまとわせた作品。

マニア向け作品のスピンオフとして作られた魔法少女シリーズとして、後年に『魔法少女リリカルなのは』が作られた。そしてその1作目の新房昭之監督がランキング3位の『魔法少女まどか☆マギカ』を手がけたという流れである。
ちなみに後年のパラレル作品『砂沙美☆魔法少女クラブ』は、岡田麿里が初めてシリーズ構成した作品である。


『戦え!! イクサー1は現代のアニメ像をかたちづくった極北として押さえておきたい。

映像ソフトとして流通させるOVAという制限の少ない枠で、メカの力強さと美少女の可憐さ、エログロの刺激性といった映像の娯楽性だけで完成した。その特異性は前衛的ですらある。
比べると同じ方向性の『トップをねらえ!』は、はるかに全体が上品に統合されていて、ひとつの物語としてまとまっていた。


『The 八犬伝も、古典を現代的に翻案しただけに終わらず、現代アニメを語るなら外せない映像作品だ。

『戦え!! イクサー1』と同じ制作会社が、OVAという枠で、各話でスタッフの作家性を存分に発揮させた作品。『新章』の斬新な作画表現は今でも語り草だが、無印の映像表現も各話にバラエティがあって見どころが多い。
同時に、人気男性声優を集めて美形キャラクターを主人公としつつ、シリアスドラマの体裁をつらぬく作品のひとつでもある。會川昇脚本らしい強いメッセージが作品を壊さず、古典の骨組みを借りて力強く提示できた作品としても印象深い。


『妖獣都市』などのアダルティなアクション作品も、海外市場との関係性を意識するなら入れるべきだろう。

映画とOVAの中間的な立場で発表された作品で、現代伝奇小説を原作として、劇画調の作画で濡れ場もしっかり描写する。滑らかなメタモルフォーゼや激しいアクションなど、アニメでしか成立しない娯楽活劇だったが、きちんと物語の筋も一本とおっている。
こうした大人向けのエログロ強調路線アニメが海外の映像ソフト市場で受け、同じ川尻善昭監督の『バンパイアハンターD』につづき、『アニマトリックス』のような洋画プロモーションのオムニバスアニメ路線へとつながっていく。


ブレンパワードも重要だろう。良い印象が少ないのだが、『新世紀エヴァンゲリオン』によるアニメブームに乗って、ベテランスタッフがWOWWOWノンスクランブルという特殊な放映枠で作家性を発揮した作品ではある。

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残念ながら、富野作品の常として同時代にはもちあげられすぎていた。明朗快活な娯楽作品と聞いて視聴した結果は完全な期待外れで、私個人としては富野信者を信用してはならないという痛い思い出となった*6
とはいえデザインワークや問題意識などに見るべきところは多かったし、劇場とも地上波とも映像ソフトとも異なる、新たな枠からアニメを送り出せることを印象づけた作品として忘れがたくはある。


『セクシーコマンド外伝 すごいよ!!マサルさんは、ショートアニメ隆盛の先駆作として勧めたい。

1週間に1話放映することが通例*7の現代とは違い、深夜帯番組内の1コーナーという特異な枠ではあった。しかしそれゆえの気取らなさがあり、現代のショートアニメと変わらない。
ショートアニメゆえに凝縮されたギャグも楽しく笑えた。ギャグアニメのテンポやスピード感は、この作品前後から様変わりした印象がある。


『遊☆戯☆王5D's』は、なぜかランキングに見当たらない……というのは私の見落としによる誤りで、コメント欄で指摘をいただいたように400位までは複数ランクインしていたのだが……TCGアニメの代表として、漫画原作から完全に離れたオリジナルストーリーゆえに推したい。

遊☆戯☆王5D’s DVDシリーズ DUELBOX【1】

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カードゲームをゲームとして終わらせず、社会階級に反映するディストピアでの闘争を描く。かつてのロボットアニメのように、TCGという玩具をバトルに用いれば、自由に物語を作ることができるということを証明した*8
ちなみに前半のシリーズ構成を手がけた冨岡淳広は、ニチアサ7時枠のTCGアニメ『バトルスピリッツ』シリーズの2作目からシリーズ構成に参加。同枠がTCGから離れた現在にいたるまで恐るべき自由を満喫している。


gdgd妖精sも、3DCGアニメが少人数で制作できることをアドリブ劇として活用した作品として入れたい。

もちろん『きらりん☆レボリューション』のように手描き作画の代替として3DCGへ移行する潮流も重要ではある。それはそれとして、最初から3DCGでしか作れない作品を目指して、成功をおさめた印象深さを推したい。そのフットワークの軽さは現在、『けものフレンズ』の大ヒットにもつながった。
ちなみに、以前に「SUGOI JAPAN」のノミネート50作品へのアンチテーゼとして選んだ1作でもある。
「アニメ | SUGOI JAPAN」裏50作品 - 法華狼の日記

*1:某中年男性、BSプレミアム『ベスト・アニメ100』の結果に困惑す。 - いつか電池がきれるまで「ベスト・アニメ100」への意見をまとめてみた&僕が思うベスト・アニメ10 - あままこのブログ等。

*2:『L/R』『SoltyRei』のような意欲作は定期的に作られていたが、商業的に広く受けいれられた成功作品となると、相当に珍しい。若々しい成人男性が主人公の人気作は『シティーハンター』『るろうに剣心』『銀魂』のように少年漫画を原作とした潮流はあるが。

*3:『劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-』 - 法華狼の日記

*4:そういう意味では、『シスター・プリンセス』がどこかにランクインするべきだった気もするが。

*5:『TIGER & BUNNY』へ繋がる、てきとうアニメ史観 - 法華狼の日記でまとめた。

*6:この作品を当時に絶賛していたゆえに、氷川竜介氏をいまだ心底からは信用できないでいる。

*7:近年も『愛・天地無用!』のような例はある。

*8:実は近未来を舞台としたTCGアニメとして『新星輝デュエル・マスターズ フラッシュ』が先行しているらしいのだが、未見なのでコメントできない。小学館プロダクション テレビ番組 新星輝デュエル・マスターズ フラッシュ