法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

とある伝説の薔薇麻生

[twitter:@johanne_DOXA]*1氏が、興味深いツイートをしていた。

実際「ローゼン麻生」という都市伝説は現在も流布されているらしい。法規制に対しても反対するだろうと期待する向きもある。
肉屋を支持する豚を笑う肉屋を支持する豚 #hijitsuzai - Togetter

  (\__/)
  > 。 。<
  (  ヾ丶丶
  / \_▼ノ
 | (,,゚Д゚)   ……今さらローゼン麻生だと
 |(ノ  |)
<人 ノノ
  ∪ ∪

                       ヘ(,,゚Д゚)ヘ いいぜ
                         |∧  
                     /  /
                (,,゚Д゚)/ 誰かが今も元総理を
                /(  )    俺たちの麻生と思ってるなら
       (,゚Д゚) 三  / / >
 \     (\\ 三
 (/Д゚)  < \ 三 
 ( /
 / く  まずはそのふざけた
       幻想をぶち殺す


全ては、総務大臣時代の麻生太郎氏が空港で『ローゼンメイデン』を読んでいたという目撃証言*2から始まった。その証言を批判するエントリとともに紹介しよう。
『麻生太郎はローゼンメイデン愛読者』はデマ (5月4日追加) - 性犯罪報道と『オタク叩き』検証

203 名前:北海道臣民 投稿日:2005/07/23(土) 07:09:11 id:FhFGR75z
漏れは見てしまった…
羽田空港JAL・ダイヤモンドプレミアムラウンジで麻○大臣が
ローゼンメイデン」①(注・○に1)を読んでいた姿を…



329 名前:北海道臣民 投稿日:2005/08/26(金) 21:09:27 id:PLsW9bHI
>>328臣民たん
ご心配おかけしました。すぐ終わると思った人大杉が1ヶ月も続くとは思わなかったよ・・・

羽田ラウンジローゼンメイデン事件の詳細
朝6時半頃、漏れは旭川行の始発便に乗るためJALダイアモンドプレミアムラウンジで
モーニング珈琲を飲みながら、サービスのパンを頬張っていた。
すると、テレビに見慣れたフロッピーたんが、秘書を伴って入場してきた。
ダイアモンドプレミアムラウンジはJALの最上級会員しか利用できないラウンジだ。
まぁ、年間50回以上JAL便を利用するか、それに相当する利用をしてJALに認定しないと
利用できない、極めて上級なラウンジと思ってもらったら良い。
フロッピーたんは大臣だから、SPや秘書を引き連れていたに違いない。しかし
このラウンジは同伴者は1名に限定されている。たぶん残りの者は、ラウンジの周囲で
警護していたのだろう。

秘書たんは黒鞄を2つ持っていた。そしてフロッピーたんは
書 泉 ブ ッ ク タ ワ ー の包装を破って、ごく自然に珈琲を飲みながら
ローゼンメイデン①(注・○に1)を読み始めたのだ。高級背広に身を包み、足を組みながら・・・
読書時間は20分くらいだっただろうか。その間秘書たんは携帯電話ブースを
往復しながら、忙しそうにノートパソコンを叩いていた。フロッピーたんは自分で
珈琲をお変わりしながら、じっくりと何度も①(注・○に1)巻をを読み返していた。
秘書が耳打ちをしたのが7時20分頃。書泉の袋に単行本を戻したフロッピーたんは、
袋を秘書たんに渡して、ラウンジ嬢に会釈をしつつ悠然とラウンジから姿を消した。
じっつに男前だった。読書中は凄いしかめっ面で怖かったよw

羽田空港で目撃した』との書き込みを、かつてスレにコピペしたときに、すぐにおかしな点を指摘されました。

  そしてフロッピーたんは
   書 泉 ブ ッ ク タ ワ ー の包装を破って、ごく自然に珈琲を飲みながら
  ローゼンメイデン①(注・機種依存文字で○に1)を読み始めたのだ。

この部分だけで嘘だとバレました。というのも、書泉の袋は全店舗共通デザイン(『SHOSEN』とローマ字表記)で、『書泉ブックタワーだけの袋』は存在しないからです。

目撃者が当該の包装が書泉ブックタワーを指していると勘違いしている可能性があり、嘘と指摘する根拠も強いとはいいきれない。他にも紹介したエントリでは複数の疑問点が指摘されており、証言に記憶の錯誤もしくは誇張があることは確実視していいだろうが、全くの捏造というには迷う微妙な線だ。説得力を高めようとして誇張した可能性も、目撃者が身分を隠すため細部をぼかした可能性も残る。
しかし、情報源が2ちゃんねる固定ハンドルによる書き込みでは、そもそも単純に信用することが危険といわざるをえない。すでに漫画好きと知られていた麻生氏であり、インターネット上での熱烈な人気も一部では存在した時期だから*3、目撃情報を捏造する動機はある。
なおエントリ中の「フロッピーたん」とは、ITが発達すれば様々な出来事がフロッピー1枚でできるようになるという趣旨の麻生発言から生まれた呼称。すでにフロッピーという記録媒体が重要度を失っていたのに発言で持ち出したため、進んでいるつもりで遅れた時代感覚が現れている象徴として、当時は政治的な立場をこえて強い印象を与えていた。


次に、実際に麻生氏が『ローゼンメイデン』について質問され、答えた記事を紹介しよう。2006年6月2日に講談社から出版されたムック『メカビ』Vol.1のインタビューで、都市伝説が事実かどうか問われて回答している*4

――あ、すいません、最後に聞きたいのですが……。若いオタクたちの間で話題になっていたのですが、麻生大臣が羽田空港のラウンジで『ローゼンメイデン(Rozen Maiden)』という漫画を読んでいたという噂が流れているのですが、本当でしょうか?
■あーはっはっは。本当かもしれないな(笑)。少女漫画だろ? 羽田空港で読んでいたかまでは、覚えてねぇけどなぁ。
――原作者の方からサイン色紙ももらったとか?
■そこまでは覚えていないけどさあ。いかにも女の子っぽい絵柄なんだけど、これ話は重厚に作られているんだよな。それでへーっと思ったの。良くできているよね。
――やっぱりお読みになっていたんですか! 今日は本当に、どうもありがとうございました。

このインタビューが出た当時は、実際に『ローゼンメイデン』を読んでいた証拠とされた。しかし私には、具体的な作品内容を麻生氏が避けて、はぐらかしているようにしか読めなかった。絵柄は実際に作品へ目を通さなくても知ることができるし、話に対する評価も具体性を欠いている。古くから続く西洋人形達の戦いに内向的な少年が巻き込まれる話を「重厚」かと問われると、主観的な評価とはいえ、私からすると違和感がある。
何より『ローゼンメイデン』を明確に「少女漫画」と位置づけているところに疑問がある。ややマニアックな漫画雑誌『月刊コミックバーズ』で連載され、後に青年向け漫画雑誌『週刊ヤングジャンプ』へ移籍されたことからもわかるように、『ローゼンメイデン』はいわゆる少女漫画ではない。
私としては、インタビュー時の麻生氏は実際に作品へ目を通していた可能性は感じるが、それだけだ。インタビュー中で原作者がサイン色紙を送ったという噂も言及されているように、都市伝説が原作者サイドにまで伝わった後のインタビューだ。きっと麻生サイドにも伝わっていたことだろう。少女漫画という認識も、後づけで簡単に目を通したために生まれた感想ではないだろうかと思った。ITの素晴らしさを語ろうとしてフロッピーを持ち出した時と同じだ。空港で読んだかどうかははぐらかしつつ、作品を知っているかのような態度も、私の感覚を裏づける。
そして目を通したのだとしても、麻生氏は『ローゼンメイデン』にさほど興味を引かれなかったようだ。インタビューで『ローゼンメイデン』が言及されたのは聞き手側から、それもインタビューの最後でだ。麻生氏が自ら肯定的に言及している近年の漫画は『ジパング』『沈黙の艦隊』『エリア88』『銀河英雄伝説』『加治隆介の議』といった軍事や政治を扱った漫画か、ゴルフ漫画の『インパクト』や若手の注目株を問われて答えた『テニスの王子様』みたいにスポーツを扱う漫画ばかり。しかも『銀河英雄伝説』は女性漫画家の作品という認識であり原作者の存在を無視して戦略描写を評価、『テニスの王子様』は作者の名前を知らない。聞き手とのやりとりから見て、ややマニアックな講談社の漫画雑誌『月刊アフタヌーン』にも目を通していない。
もちろんマニアックな漫画を読んでいれば偉いというわけでは全くないが、『ローゼンメイデン』が麻生氏の好みから外れた作品であることは確実と思える。「良くできている」という高評価も政治家らしいリップサービスにすぎないのではないか。


そして麻生氏が総理大臣を辞めた後、2010年6月22日にニコニコ動画でインタビューされた時、再び『ローゼンメイデン』を読んでいるかと問われた。
麻生元総理「ローゼン麻生」話の真相、本人から語られる - ガベージニュース

インタビュー中、司会者から「ローゼンメイデン」を読んでいた逸話について聞かれた部分を書き起こしたのがこちら。

司会:『ローゼンメイデン』を読んだことはありますか?
麻生:「あります」
   何でこの話を聞いたかというと、『ローゼンメイデン』っていう本がたまたま羽田の飛行場で売ってたんですよ。で、このローゼンメイデンというのを、「これが、『ローゼンメイデン』って言うのか』って思ってたまたま見てたら、そこに中学生の修学旅行がいて、パシャパシャパシャって(携帯電話で撮られて)。それがあっという間に流れて、「麻生は少女漫画を読む」って話になっちゃったんです。たまたまこれが、と。
   だけど、最近みんなこう……どれもこれもやたら目玉が不必要にデカく描いてある漫画が多くて、『ゴルゴ13』みたく目の小さいのってのは本当に少ねぇな。ははははっ。ねぇ、どうしてこんなに大きく目玉が描いてあるんだろう。
司会:あれはたまたまだったんですか?
麻生:『ローゼンメイデン』はそう。ただ、「ローゼンメイデン閣下」(というフレーズ)がいつのまにか何となく(広まって)、とにかく、何だろうね(私に対する)ハンドルネームまで「閣下」みたいな形になってたりしてるでしょ?

このインタビューでも、麻生氏が『ローゼンメイデン』へ言及したのは最後に質問されたことを受けてだ。それ以前に漫画を語る場面があり、そこではサッカー漫画『LOST MAN』を高評価している。くわえて今インタビューでは目が大きな絵柄への違和感も語っている。やはり『ローゼンメイデン』を愛読していたわけではないことは確実視していいだろう。
そして『メカビ』インタビューとの食い違いは年月をへて記憶が変容したためと考えてもいいが、それでも最初の目撃談とは明らかに異なる。わざわざ「書 泉 ブ ッ ク タ ワ ー」と空白で強調され、つまり秋葉原で購入したかのように語られていたが、麻生氏自身の弁によれば空港でたまたま手にとっただけという。また、麻生氏がいう空港で写真を撮られて広まったという説明も、実際に目撃談が広がっていった経過と異なる。


何度も『ローゼンメイデン』へ目を通したかのように語った麻生氏が、今さら過去の都市伝説を否定することはないだろう。目を通しさえすれば、後から整合性ある現場の状況を語ることも不可能ではあるまい。もはや最初の目撃談が事実であったかどうか判断することは不可能に近い。
しかし、これだけは確実にいえる。麻生氏は『ローゼンメイデン』を愛読していたわけではないし、「ローゼン麻生」という幻想を作り出した書き込みは意図的に誇張されたものだった。
麻生氏は2003年の『ビッグコミックオリジナル増刊』インタビューで、下記のような発言を行っていた*5

麻生 そうですね。本宮ひろ志さんの『男一匹ガキ大将』。あれが、最初にストーリーとして、おもしろいなと思ったコミックですね。当時、コミックっていうのは、いい歳した人、読まないもんだったですからね。

  その10年後くらいに、右手に「マガジン」、左手に「ジャーナル」って、大学生がコミック読んでても不思議がられない時代になりますが……

麻生 「朝日ジャーナル」、筑紫哲也さんでしょ?

  10年ほど、先生の方が早かったなって気がしますが……

麻生 筑紫哲也さんって、今、テレビに出ておられますけど、あの方が「朝日ジャーナル」の編集長でおられて、それで学生が、皆かぶれたわけでしょ。あの時代、結構、影響力があってね。あれとコミックでうまいこと、若い人がバランスを取ってたとすりゃあ、コミックって大したもんですよ。

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 | (#゚Д゚)  「若い人」は朝日ジャーナルとバランスとるためコミックを読んでたわけじゃねえよ!
 |(ノ  |)    どっちかっつうと同じサブカルチャーという文脈で考えるべきだろ!!
<人 ノノ
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麻生氏が称揚する漫画とは、このようなものだった。このように別の影響力持つ思想と相対する意味で漫画に価値を見いだした麻生氏と、漫画に対する法規制は相反するどころか、むしろ親和性があるのではないだろうか。


最後に、数々の麻生太郎失言について、簡潔にまとまっている記事を紹介しておこう。
新総裁 麻生氏 発言録/婦人に参政権与えたのは失敗/創氏改名は朝鮮の人が望んだ/豪雨、岡崎だったからいい

偏見・差別

 「東京で美濃部革新都政が誕生したのは婦人が美濃部スマイルに投票したのであって、婦人に参政権を与えたのが最大の失敗だった」(一九八三年二月九日、高知県議選の応援演説)

 「創氏改名は、朝鮮人の人たちが『名字をくれ』と言ったのが始まり」(二〇〇三年五月三十一日、東京大学での講演)

 (北朝鮮のミサイル発射について)「(朝鮮労働党金正日総書記に)感謝しないといけないかもしれない」(〇六年七月八日、広島市内での講演)

 「地球温暖化を心配する人もいるが、温暖化したら北海道は暖かくなってお米がよくなる」(〇六年九月十三日、札幌市での総裁選演説)

 「七万八千円と一万六千円はどっちが高いか。アルツハイマーの人でも分かる」(〇七年七月十九日、富山県高岡市での講演)

 (幹事長就任のあいさつで訪ねた江田五月参院議長に)「審議をしないとどうなるか。ドイツでは昔、ナチスに一度(政権を)やらせてみようという話になった」(今年八月四日)

 「岡崎の豪雨は一時間に一四〇ミリだった。安城や岡崎だったからいいけど、名古屋で同じことが起きたらこの辺、全部洪水よ」(九月十四日、名古屋市での総裁選演説)

改憲・軍拡

 「自衛隊(の存在)はみんなが認めている。日本は戦力を保持しないといっても、外国は理解できない。憲法九条二項を『陸海空自衛隊、これを置く』と置き換えればいい」(〇一年四月十四日、時事通信社などとのインタビュー)

 (海外での武力行使を可能にする集団的自衛権について)「権利はあるが使ってはいけない、というのは無理がある。世界中で認められていない国はない」(〇一年十一月四日、学習院大学での講演)

 (「核武装」をめぐる議論について)「いろんなものを検討したうえで持たないというのも一つの選択肢だ」。核武装の議論を否定せず(〇六年十月十七日、衆院安全保障委員会

靖国神社

 「遊就館には何度か行ったことがあるが、戦争を美化するという感じではなく、その当時をありのままに伝えているというだけの話だ」(〇五年十一月二十一日、米ブルームバーグ・テレビの番組)

 「(靖国神社に)祭られている英霊は、天皇陛下万歳といった。天皇陛下の参拝が一番だ」(〇六年一月二十八日)

 (小泉純一郎首相の靖国参拝について)「祖国のために尊い命を投げ出した人たちを奉り、感謝と敬意をささげるのは当然。首相としても簡単に譲るわけにはいかないと思う」(〇五年十一月十三日、鳥取県湯梨浜町での講演)

 「『大変だ、大変だ』と言って靖国の話をするのは基本的に中国と韓国、世界百九十一カ国で二カ国だけだ」(〇五年十一月二十六日、金沢市内での講演)

消費税

 「基本的には消費税10%はいまでも一つの案だ。小福祉小負担、北欧のような高福祉高負担とあるが、日本の落ち着く先は中福祉中負担だ。その場合、消費税10%は一つの目安かと思う」(今年九月十四日、NHK番組)

さすが赤旗というべきか。総理就任前の記事とはいえ、小さな失敗は掲載されていない*6。総理在職中は漢字の読み間違いのような小さな話題ばかりくりかえし報じられ、結果として他の失言が存在しなかったかのように語られがちな麻生氏だが、実は政治家として致命的な発言をいくつも行っている。
核武装議論を否定しなかったことや消費税増税発言を失言にふくめるのは異論もあろうが、婦人参政権創氏改名靖国神社*7に対する認識は重大な誤謬だろう。
石原慎太郎都知事ほどではないにしても、麻生氏が差別主義を時たま表出させてきた政治家であることも事実なのだ。

*1:エロ漫画家の山本夜羽音氏。

*2:ちなみに、203番の証言に対して別人が「北海道臣民」という固定ハンドルを利用して便乗したのかもしれないと思ったこともある。書き込み時期が一ヶ月も開いているし、「…」と「・・・」という表記の差異も別人説を裏づける。203番の証言だけならば、後の麻生発言と整合性もある。しかし「北海道臣民」という名義は現在も活動しているらしいので、同一人物と考えなければいけないようだ。

*3:まだまだ「行動する保守」界隈が活発に活動していた時期でもある。

*4:40頁。

*5:かつて公式サイトにも掲載されていた。現在は見当たらないので、インターネットアーカイブ等を利用のこと。http://www.chikuhou.or.jp/aso-taro/newspaper/030702-1.html

*6:むろん、掲載されていない他の失言全てが小さなものだというつもりはない。http://www.tokyohomeless.com/body2-75.htmlのような現代のホームレス蔑視発言も、失言まとめ記事と時系列は前後するが、重大な問題だ。また、赤旗には幹事長時代の「飲み食い」を報じる別記事もあるが、漠然とBAR通いを揶揄するような論調ではなく、頻繁に多額の金を政治資金の名目で動かしていることを問題視している。http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-08-14/2008081415_01_0.html

*7:中国や韓国以外にも問題視する国家があったことは、日本共産党サイトの別ページを参考のこと。わざわざ香港と中国を別けて記述しているところが地味に興味深い。http://www.jcp.or.jp/tokusyu-06/03-yasukuni/hihan_kenen/asia.html