法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ホワット・ライズ・ビニース』

2000年に公開されたアメリカ映画。
クレア・スペンサーは、大学進学した娘が家から離れてさびしさを感じつつも、遺伝学者の夫と2人きりで幸福な日々をすごそうとする。しかし隣人の怪しげな行動や、過去の事故で失われた記憶に悩まされながら、超常現象とも幻覚ともつかない出来事に遭遇していく……


怨恨を動機に出現する幽霊像が、日本のホラーを思わせる。殺人描写の凄惨さや怪物の醜悪さにたよらず、コメディ演出で茶化すこともなく、真面目に古典的なサスペンスを描いているところに好感をもった。様々な場面で鏡を背景に設置してありえないはずのものが見えるかと恐怖させたり、水没をめぐる恐怖と切り抜けるサスペンスが特に良い。水没描写は映画全体の構図にも関係している。
また、いくつかのアイテムを手がかりとして用い、段階をふまえて事件の真実を視覚的に提示していくところも悪くない。
しかし序盤に事件の発端かと思わせた出来事がただの引っかけでしかなく、後の展開と無関係なまま終わったところは残念。とある夫婦の出来事という意味では、主人公の立場と一種の鏡像になっているといえなくもないが……


ジャンルとしてはスリラーで、Jホラーの名作に近い印象もある。しかし出来は悪くないのに、どことなくぬるく感じた。超常現象と解釈しても幻覚と解釈しても物語の筋が通るところが、逆に中途半端さに結びついたのか。あるいは日本のホラーに似ながら、後味だけは良い結末がぬるさを感じさせるのか。個人的には、けっこう気の抜けた場面を入れてしまうロバート・ゼメキス監督らしさを感じた。
クライマックスで、吊り橋を疾走する自動車をロングカットで映し、そのままワンカットでカメラを車内へ入れていくカットを見せたりと、さりげない場面でなぜか特撮に力を入れるところもゼメキス監督らしい。もちろん超常現象描写で特撮を多用しているが、ほとんど古典的な特殊メイクや水中撮影、モーフィングで処理されている。