法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

2009年アニメベスト&ワースト企画

http://d.hatena.ne.jp/ill_critique/20091220/1261317064*1

■「2009年ベスト/ワーストアニメ」

* 執筆形式・論述分量自由
* ベスト/ワーストの定義も自由
* 挙げる作品数も自由
* 書きあがった記事は「反=アニメ批評」か「EPISODE_ZERO」の告知記事にトラックバックを送っていただければ、後々そのまとめ記事を作成します
* 記事の一斉アップ時間は12月27日(日)23時〜24時の間(23時直後推奨)

私はいつもそうだ。気づいた時には遅すぎる。しかし……

# その時間帯は都合が悪いという方でも、年内にトラックバックしてくださればまとめ記事に対応させていただきます

……とのことなので一応、一作品ずつ提出しておこう。
ベストは『鉄腕バーディーDECODE:02』、ワーストは『ドラゴンボール改』。自分で驚くほどありきたりな選択だが、正直な感想である。


さて、『鉄腕バーディーDECODE:02』を選んだ理由だが。
シリーズ2期ゆえ今年の作品と呼ぶには違和感あるかもしれないが、だからこそ推させてもらった。スケジュール管理のため2期にわけて1期終盤の熱さや一体感を失ったり、1期で完結したものに蛇足を加えたりする作品が多いが、この作品は違う。2000年代になって増えた2期作品の中でも、2期として作られた意味が最もある作品の一つだ。1期の物語をきちんと完結させつつ、そこで起きたり示唆された事件の関係者が復讐に駆られて物語が始まる。つまり1期と2期はネガとポジの関係にある。
男女の精神が同居する主人公は、それぞれ1期と2期で互いを観察する。大破壊が起こされようとも個人の幸福を追求する1期、個人の因縁を壊れた社会が包み縛る2期。青空と星空が対となるOP、少年と少女が対となるED。全てが対となり、隠されていた側面を照らし出す。
また、恩讐と赦しの物語であることは9.11以降の世界情勢を反映したものといえるが、物語の射程はそれにとどまらない。主人公の一人、日本人の少年は、異星で起きた過去の事件について傍観者でしかない。現状で起きている事件を自らの肉体で解決することもできない。戦争を遠く知り、しかし無関係であるはずがない日本人が視聴者となる作品だからこそ、主人公の設定が活きてくる。それは、視聴者の感情移入を助けたり、傍観者の無知や無責任を責めたりするような、他の作品でも見られる要素ではない。戦争から遠く平和を享受している者だからこそ、そうして生きること生かされることを肯定できる者だからこそ、冷笑主義や破滅願望を超克できる可能性があると、この作品は示したのだ。
映像面でも、キャラクターデザイナーがWEBから発掘されたアニメーターであること、アニメーター個人がWEBで情報発信して話題になったことにも、現代的な価値を見出せる。第7話のアニメーションらしい冒険は話題になっただけに様々な実験が試みられていたといえるし、それを踏まえて高い完成度を示した第12話は手書きアクションの一つの到達点といって過言ではないだろう。
1期はいささか立ち上がりが遅かったこともいなめないが、2期は最初から激しい描写で興味を引きつけてくれたことも嬉しい。SF映画やアメコミ映画化作品が『帝国の逆襲』『X-MEN2』等、最初の作品はキャラクター消化で時間をとられてしまい、2番の作品が完成度は最も高くなるというジンクスが見事に当てはまっている。


ベストの次点として『キャシャーンSins』も良かった。リメイク作品でありながら完全にプライベートフィルムに仕立て上げ、それでいてアクションも充実し物語として閉じている。しかし6割くらいの時間をかけて同じ物語を描くこともできたと思えた。最終回のまとめは見事で、長い物語の結末という感慨もあったとはいえ、中盤のシリーズ構成には今でも疑問を感じている。映像面で見ても、撮影の工夫は『ムシキング 森の民の伝説』を延長したものにすぎないし、作画は山内重保監督が手駒として持っているものを組み替えただけの感が強い。
あまりアニメ感想サイトでは話題になっていないが、『初恋限定。』も地味な良作だった。思春期向けライトエロコメディではあるが、それが逆に性をふくむ思春期らしい屈折を描き切る結末を生んだ。少年3人が自転車で現実からの逃走をはかる終盤などは、青春を描いた作品として素直にのめり込むことができた。主観映像の長い背景動画に乗せた長い独白は、一見の価値あり。少年少女の世代差に注目することで、無駄な登場人物を排しつつ、広い世界を感じさせることも好印象だ。この種の作品では大人の、特に両親の不在によって世界観が矮小となることもしばしばある。あと、原作マンガが完結した後でアニメ化したことも、シリーズ構成が破綻しなかった一因だろう。
アニメかどうか迷ったものとして『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!』もある。子供向け料理アニメとして、実写とアニメを接合した作品の最先端として一見の価値はあり、アニメパート作画も最近のスタジオディーン作品としては珍しく良いのだが、さすがに脚本が弱すぎる。


さてワーストだが、これが案外と難しい。
色々と考えたすえに、『ドラゴンボール改』を選ばせてもらった。
いかに引き延ばしがひどい作品だったとはいえ、単純に編集圧縮するだけでは「間」の情緒が失せてしまうことが明らかとなった。HDリマスターするのも良いが、そのため上下をカットして構図が崩れてしまった。
この実質的な再放送のために『ゲゲゲの鬼太郎』5期がつぶされたというのも悲しいし、その再放送作品が視聴率上位につけているということは、商業アニメの絶望的な一面を象徴しているように思う。


先ごろ最終回を迎えた『うみねこのなく頃に』は原作から削除された描写が多すぎると聞くが、原作を知らない者としては大きな問題を感じなかった。幻想ミステリとして見ても、特に問題を感じない。来期がなくても、それなりに推理物として完結している。超常的な事件が人間にも可能という推理ができれば、実は本格ミステリの充分条件を満たしているのだ*2。真犯人が誰かが示されないままでも問題ない。いわゆる犯人当ては本格ミステリの中心に近いが、あくまで1ジャンルだ。この作品でも途中までXという仮想の人間を想定していたし、本格ミステリ小説でも正体不明な人間が真犯人という例は複数ある。多少は無理があったものの、事件を現実に着地させつつ犯人をぼかして来期へのふくみを残したシリーズ構成は、原作ゲームが完結していない状態ではベターな選択だ。
ふと『ヘタリア』を上げれば一部の期待にそうだろうと思ったりもしたが、ボブ白旗監督の5分間アニメというフォーマットという時点で薄々感じていた通り、今はなきワンダフルアニメを思い出させる程度の内容だった。特別に良い部分は見当たらないが、かといって悪く感じるほどでもない。ワンダフルアニメのボブ白旗作品には、もっとこなれていない作品が多かったことを思えば、わりとしっかりした作りだったと思える。

*1:太字強調は引用せず。

*2:読者や視聴者の満足感を満たせるかは別問題だが。