徳間書店の老舗アニメ雑誌『アニメージュ』にて現在も連載されているアニメスタッフインタビュー記事「この人に話を聞きたい」をまとめたもの。インタビュアーは「WEBアニメスタイル」編集長の小黒祐一郎。監督、脚本家、声優、美術、プロデューサー、アニメーター、といった様々な役職からの興味深い内容が語られ、資料性の高い書籍になっている。初期は読み逃した回が多いので、個人的にも嬉しい。
たとえば、東映アニメーション作品史に言及したエントリ*1で書いた『花より男子』の商業的失敗は、ここでの関弘美*2インタビューが情報源だ*3。
黄瀬和哉*4インタビューは、以前に言及したアニメスタイルイベント報告*5を裏付ける内容になっている。参加作品はやはりOVA『ブラック・ジャック』だった*6。
野村道子*7の、キャリアウーマンとしての横顔をとらえたインタビューも面白い。事務所経営を始めて多忙になり、やりたい事があるため役者には未練がないことを、1999年5月号の時点で語っている*8。また、普段は役のイメージを壊さないよう大人しい発言が多いが、ここでは「女の子って、役があんまり面白くないじゃないですか(笑)」*9といった踏み込んだ発言が見られる。前アニメ版しずかの、お嬢様っぽい役柄*10にフラストレーションが溜まっていたようだ。
あまり表に出てこないアニメスタッフの発言としては、ゆきゆきえ*11インタビューが最も興味深いかな。当時のフィリピン子会社は技術力が低く、色画用紙に絵の具を乗せる手法で手間を減らしつつ質感を確保したりといった工夫が面白い。
もちろん、娯楽であるアニメの流行り廃りは激しい。
ほとんどのインタビューイが新たな仕事を行っていて、インタビュー時と現在では世間的評価から実績まで異なっていることが多い。ここは逆に、インタビュー時の状況をうかがわせる資料としても読めると考えるべきだろう。立場の変わった各スタッフが昔から変わらないでいる芯を探る手助けにもなる。
たとえば福田己津央インタビューからは、後の『機動戦士ガンダムSEED』監督時に不評だった思わせぶり口調が、2000年8月号の時点で完成されていたことがわかる*12。OVA『サイバーフォーミュラSIN』のキャラクターがそれぞれ持っている心情について説明している部分なのだが……
福田 だから、敵にならないんだよ。色々と考えたんだけど、ハヤトと加賀が戦う時に他のやつらが入ってきても、ダメなんだよ。次元の違う戦いをしちゃってるから、入れるとそいつらがバカに見えちゃうの。(注3)
―― それで、『SIN』ではランドルや新条は、ほとんど出てこない。
福田 特にランドルは使いたくなかった。なんか可哀想でさ。新条はね、何となく使えなかった。使おうと思ったけど、やっぱり、今回はドラマを背負ってないからさ。例えば、新条は、ハヤトや加賀とお友達だけど、今回は「ガンバレよ」なんて声をかけるわけにはいかない。声をかけても、ハヤトや加賀には、もう分かっているんだよ。
―― 何が?
福田 結末が、分かってるのよ。
―― 何の?
福田 『SIN』の結末が分かってる。つまり、「この戦いをやったらどうなるか」という事を、二人とも分かってるのよ。だから、ハヤトや加賀に他の人が何を言っても、「お前の知った事か」で終わっちゃう。だから……。
―― これは二人だけの物語だ、って事なんだ。
これほどディスコミュニケーションなインタビューも、ちょっと珍しい。他でも、聞き手が当惑する場面が頻出する。インタビュアーが作品内容を把握しているからと、以心伝心で理解してくれると監督が期待したためではあるだろうが……
なお、スケジュールが崩壊しシリーズ構成も迷走していた『機動戦士ガンダムSEED』と違い、気心の知れたスタッフで固めて制作に時間をかけたOVA『サイバーフォーミュラSIN』は、内容の短さもあって相応にまとまっている。確かに二人の主人公に焦点をしぼったのは正解と感じさせる出来だった。レース場面でバンクが多いながら作画クオリティも高く、一見の価値はある作品だ。
また、この福田監督インタビューでは『あしたのジョー』等にからめて、「男」を熱く語っている場面がある。『サイバーフォーミュラSIN』を男同士の戦いと位置づけ、女性キャラクターを邪魔物扱いしている*13。
さらに続けて山内重保監督インタビューも読んだ時、ふと出崎統監督が持つ一つの特徴を気づいた。その特徴は、ちょうどネット有志でレビュー企画があった映画『劇場版クラナド』に最もよく現われている。後で書く予定。
*1:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20091225/1261787272
*2:東映アニメーション所属のプロデューサー。女児向けアニメの他、『デジモン』シリーズ等を担当。
*3:135頁。
*4:プロダクションIG取締役のキャラクターデザイナー、作画監督。
*5:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20080816/1218949013で引用した話。むしろ、イベント報告内容自体は他のイベント報告と照らし合わせることで、当時から大きな誤りがないことは推定できていた。
*6:433頁。他にも、アニメスタイルイベント報告と重なる内容の発言がかなり多い。
*8:123、125頁。
*9:117頁。
*10:原作やリニューアルアニメ版では、男の子に入れ替わりたい願望や、大雑把な一面も存在している。
*11:東映アニメーションの背景美術スタッフ。美術設定として建物や屋内から小物類のデザインまで同時に手がける。近年では『キャシャーンSin』での登板が印象深い。
*12:368頁。ちなみに本題とは関係ないが、注3を説明している378頁の記述は、前作である『サイバーフォーミュラSAGA』と表記するミスをおかしている。
*13:個人的には、久行宏和のキャラクターデザインも、目が小さくリアルなようでいてデフォルメされているところが、杉野昭夫デザインに通じるところがあると思っている。『舞HiME』シリーズでの、一部から「顔芸」とも呼ばれた表情芝居作画もあるわけだし、出崎統作品に登板したら合いそうな若手アニメーターの一人と思うが、どうだろうか。