法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『坂の上の雲』第3回 国家鳴動

前半では、秋山兄の結婚*1や、秋山弟の帰郷と清国軍艦の偵察、正岡子規の新聞社入社といった主人公を中心としたドラマが続く。
しかし後半に入ると、一気に国家上層部の視点へ変わり、日清戦争が行われた日本側の理屈が長々と語られる。


これまでの若き三人に代わって主人公となるのは、伊藤博文陸奥宗光、川上操六の三人。加藤剛が演じる伊藤は、少なくとも現時点では平和主義者に近いよう描かれており、その意図を陸奥達が裏切るという構図だ。
陸奥達を「カミソリ」「陸軍の至宝」と呼ぶようなナレーションを無視すれば、ドラマの説明だけから判断してさえ、日本の行動は傍若無人という他ない。
当時の日本とロシアが清の影響下にある朝鮮半島を狙っていたこと、朝鮮半島で農民が乱を起こした時*2に朝鮮は清へ救援を求めたこと、清の派兵へ対抗するよう日本は勝手に派兵したこと、伊藤との約束を陸奥達は誤魔化して兵員数を増やしたこと、乱が鎮圧されていたのに日本軍は朝鮮半島に居座ったこと、朝鮮半島を共同管理する提案を清に蹴らせることで戦争の大義をえようとしたこと……
こうして開戦の経緯が整理されると、日本は火事場泥棒かヤクザとしか思えない。現場の勝手な判断で増派し、政府上層部が追認するところなど、満州事変や日中戦争の雛形とすらいえる*3司馬遼太郎が書いた地の文そのままのナレーションが空回りして感じるのは、ドラマスタッフの意図通りかどうか。
さらに最後まで見ると、清国将兵を満載したイギリス客船を東郷平八郎が攻撃する場面が今回の結末だ。もちろん東郷は単に悪者として描かれているわけではない。中盤では清国艦隊を視察して切れ者の片鱗を見せ、勝手に艦内へ入った秋山弟を助けたりもする。しかし客船を攻撃してイギリスを激怒させたという描写は、単純な善玉に見せるなら省略するなり工夫するところだろう。
今回を見る限り、ナレーションや配役で演出された日本像と、物語で示される身勝手な日本像の乖離が凄くて、制作者が考え抜いているのか全く考えていないのか判然とせず、逆に興味深かった。今後の展開によっては、傑作にも駄作にもなりえそうだ。


今回も特撮には素晴らしいものがあり、次回の本格的な戦闘を期待させてくれる。
海面に着弾して上がる水飛沫は自然でスケール感もあり、たとえば映画『ローレライ*4のCG臭さとは比べ物にもならない。ただ1カットだけ、砲弾の主観映像でイギリス客船上の清国将兵が合成臭くて不自然だったかな。
あと、清国軍艦の奇麗な外見と、船内に降りてからの魔窟のような情景は、ドラマの演出として非常に良かった。

*1:個人的には、姫様がデレるのが早すぎると思った。同じ台詞回しでも、まだ気を許したわけではない口調で演じれば、今風のツンデレにできたのではないか。いや、どうでもいいといえばどうでもいい話だが。

*2:原作通りにしても、農民の蜂起に対して「反乱」という表現をナレーションで用いたのは、いささか引っかかった。

*3:もし私が脚本を書くならば、日中戦争の無茶な開戦を司馬遼太郎が批判した文章を、朝鮮半島増派決定の場面で引用したかもしれない。

*4:陸上の、爆撃機等の特撮は良かったのだが。