法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

茶道を題材とした時代小説『利休にたずねよ』が、差別主義者の標的になっている

私は未読だが、2008年に直木賞を受け、映画化もされて昨年末に公開された。しかし千利休の茶道の根幹に、朝鮮半島出身の女性との淡い恋があったという設定があるため、特定の人々の反発を引き起こしているらしい。
susahadeth52623氏の映画レビューエントリの後半で、発端となったらしい批判記事と、その批判が映画の描写と整合していないという指摘がされていた。
美と業の世界 利休にたずねよ - The Spirit in the Bottle

どこにそんな「茶道の起源を朝鮮」なんて描写あったんだよ。原作の方は読んでいないがあれは普通に利休の若いころの体験が彼の美意識に影響を与えた、というだけだろ。

2008年に直木賞を受けた原作小説についても、AMAZONレビューを見るとひどいことになっている。判を押したような星ひとつのレビューばかり参考になるとされて上位にならんでいた。

映画化前の批判意見を見れば、朝鮮半島とのかかわりのみを重視してはいないし、実際に読んだのであろう個性的で具体的な内容なのだが。


くりかえしになるが、私自身は映画も原作小説も目を通しておらず、批判が作品描写と整合しているかどうかは判断できない。しかし批判の根拠としている歴史認識そのものが誤っていることは指摘できる。
たとえば表千家都流茶道教授という人物のブログで、映画内容と史実が異なる部分を指摘するエントリがあがっている。映画に対しては、「嘘は嘘として知っておいて、作品を観るべきだ」という主張にとどめているのだが。
【映画】『利休にたずねよ』の嘘を暴く【追記】 | 習心帰大道《都流茶道教室■月桑軒》in 池袋*1

・日本人が李氏朝鮮の姫を拉致した事実はない。青年利休との心中はフィクション。
因みに、当時李氏朝鮮は日本に従属しながら明にも朝貢しており、毎年美女を3000人も差し出している。このことは、高麗史・稼亭集・墓誌・朝鮮王朝実録などにも記載がある史実である。
※コメントにもありますが3000人というのはどうやら誇張だったようです。

たとえば美女の朝貢3000人という主張について、コメント欄で(2013-12-12 15:19:38)に指摘されて人数だけ訂正しているが、これについては古くからインターネットでもデマと指摘されている。
弾薬庫/「美女三千人」貢納言説について - PukiWiki

1)「各地の美女三千人を選り抜き、清国に朝貢することが義務づけられていた」とする説は、もともと黄文雄氏の誤読に基づく。
2)黄氏は後に自説に疑問を抱いたが、根拠とした記述の再検討までは行わなかった。
3)黄氏の説を再検証せぬまま、これを流布させる行為が行われた。
4)後に黄氏の呈した疑問も3)を止抑できなかった。
5)広く流布した結果説話として定着し、根拠や論者すら明記されない状況に至る。
という経緯なのである。

黄文雄著作しか情報源がない時点で、信頼性がないと判断すべき話だろう。
当時の歴史的事実として書かれた朝鮮出兵の記述は、事実関係よりも筆致からにじみでる価値観がひどい。

<当時の歴史的事実>
・秀吉は高麗に明への道案内を命じたが、明にも従属していた李氏朝鮮面従腹背ができない状態になったため、道案内を 断った。これに怒った秀吉が朝鮮出兵を決めた。利休はこれを諌めている。実際に出兵すると人口の五割に達する奴婢の協力もあり、日本軍は快進撃。王宮など は日本軍が到着前に焼き払われており、日本軍が破壊活動をするまでもなかった。

高麗は面従腹背して道案内をするべきだったというのだろうか。それに明らかな侵略を「快進撃」と表現するのも現代の観点からどうかと思うし、継戦能力に欠けて最終的に撤退したことを当時の視点でも高評価することなどできまい。
また、コメント欄で(2013-12-15 12:43:46)に書き込まれた指摘と返答を読むと、やはり作品に実際に描かれていなかったり断定する描写をさけた部分まで批判しているらしい。実際に見ないと確定はできないものの。
一例として、先述の映画レビューエントリやコメント欄で指摘されているが、そもそも朝鮮半島出身の女性は姫という身分ではないようだ。公式サイトを見ても、「李王朝の血を引く娘。派閥争いに巻き込まれ、さらわれ日本へと売り飛ばされた」*2とだけ説明されており、日本人が直接的に朝鮮半島に乗りこんで王族を拉致したというわけではないらしい。


ついでにブログのプロフィール欄を読むと、違和感ある部分と納得できた部分があった。
碧夢庵 道舜 宗地さんのプロフィールページ

 茶風は「へうげもの」を目指しております。
 好きな陶器は「総織部」と「萩」。
 茶道具としては「唐銅(からかね)」も好きです。
 尊敬する茶人は「古田織部」。

いや『へうげもの』でも朝鮮半島から陶工だけでなく女性をつれかえる描写があったよね?
そもそも『へうげもの』が高評価できるのなら『利休にたずねよ』で指摘されるくらいの違いは問題にならないだろう。

 政治観は「中道右派」。
 美しい日本、古き良き日本が好きです。反日国に対しては好感情を持ちようがない人でもあります。自民党支持嫌韓

ブログエントリで執拗に「支那」という表記を使っている時点で、察するべきであった。
しかし、はたして「嫌韓」とは「古き良き日本」の考えなのだろうか。「反日国に対しては好感情を持ちようがない」ことは「美しい」のだろうか。

*1:文字色変更を引用時に排した。

*2:http://www.rikyu-movie.jp/contents/cast/index.html