法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

グレンデール市の従軍慰安婦像に書かれた被害範囲を批判する人

ちょっと思うところがあって、従軍慰安婦問題を否認するデマをリストアップしているのだが、どうあつかえばいいのかわからない主張がひとつある。
グレンデール市・慰安婦像横のパネル日本語訳。慰安婦被害者を韓国からアジア全体に拡大表記しています。日本政府しっかりしろ。韓国ざけんな。


グレンデール市・慰安婦像横のパネル日本語訳。慰安婦被害者を韓国からアジア全体に拡大表記しています。日本政府しっかりしろ。韓国ざけんな。

何かと思えば、朝鮮半島以外からも慰安婦が集められたという表記を根拠として、他国が加害した責任者として日本が名指しされていると解釈しているのだ。
ベトナム戦争で日本政府は米韓に加担していたという史実はさておいても、「1923年から1945年にかけて」という翻訳文を自分で載せながら、なぜベトナム戦争がふくまれると考えたのだろうか。


もちろん「日本で見る主張より酷い」という評価も的外れだ。
日本内地から各占領地まで被害範囲が広がっていることは、少なくとも1990年代にははっきりしていた。たとえば吉見義明『従軍慰安婦』における徴集を論じた章では、日本と朝鮮と台湾と中国と東南アジアの各地域別に証言が検証されている。
アジア女性基金の公式サイトでも、フィリピンを筆頭に各国家出身の慰安婦がとりあげられており、日本政府が半公式的に認めつづけていることは明らかだ。
慰安婦問題とアジア女性基金 日本軍の慰安所と慰安婦
先日に開設された従軍慰安婦問題サイト「忘却への抵抗・未来への責任」では、慰安所制度の広がりを視覚的に示す「慰安所マップ」というコンテンツがある。
慰安所マップ | Fight for Justice 日本軍「慰安婦」―忘却への抵抗・未来の責任
従軍慰安婦像に書かれた被害地域からパプアニューギニアが欠落しているといった批判は可能かもしれないが、被害範囲が広すぎるという主張はなりたたない。


これまで逆に、歴史学者や韓国政府が朝鮮半島ばかり問題視して、日本内地や諸地域の慰安婦を無視しているというデマなら、何度も見聞きしてきた。
吉見義明『従軍慰安婦』にも書かれてある日本人慰安婦について、「さっぱりといってもいいくらい聞かない」「書いている本は少ない」と主張する人々 - 法華狼の日記
しかし、きちんと朝鮮半島以外の慰安婦を問題視しているのに非難される光景は、さすがに初めて見た。複数の固定観念と聞きかじった知識があわさった結果のデマだろうと思うが、その内実は想像することすら困難だ。オランダ人慰安婦に対して、侵略側が被害をうったえる資格はないと相対化する主張は見たことがあるが、今回のデマとは根底から異なっている。


これが一人の思い違いですむならばまだいいが、ツイッター上の評価を読むと、複数の人間が信じてしまっているようだ。
http://topsy.com/http://twitpic.com/d5yekw
いずれにせよ、従軍慰安婦をめぐる全てのデマを網羅することは不可能だと、痛感した。