法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『BSアニメ夜話 Vol.04 超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』

番組では語り足りなかった分のインタビューで、板野一郎氏がバルキリーのデザインについて意外な発言をしていたのでメモ*1

ええ(笑)、だからバトロイドの顔にしても、最初はもっとズバット的な顔だったんですけど、それをもうちょっと目を吊り上げて格好よくしたり。あとはポーズや骨格や筋肉を意識して、勝手にバルキリーの首筋も細くして、体型も逆三角形にしたりとか。

バルギリーの足も設定段階では飛行機の時には閉じるだけだったのが、作画の段階でこういうふうにベクターをつけたのは作画サイドですからねぇ。そうやってちょこちょこ原画段階で改造していました。

バルキリーのデザインに水平尾翼が存在しないのはベクタードノズル*2を用いているからという理由が常識だったが、まさか河森正治初期デザインでは存在せず、作画段階の改造とは。もちろんメインスタッフとはいえ記憶違いの可能性があるし、逆に軍用機の知識を持っている板野氏なら当時に考えつく可能性もある*3
また、北久保弘之インタビューによると、板野氏は意外とオカルト派だという。『マクロス』制作中にも、タツノコプロで仮眠していて吉田竜夫初代社長が夢枕に立ったことがあるそうだ。
ニューエイジ方面に河森氏が向かってしまった原因には、板野氏の薫陶があったからかもしれない。
そこで板野インタビューに戻って、劇場版の話。板野氏が河森氏に意見したことが恋愛描写に反映されているという*4

ただ僕としてはアドバイスといっても悪口を言うしかないんですよね。「いつまでも中学生の初恋物語みたいなものはやめろ」とか「もう少し大人にしよう」とかね。TVを見ていて「こんな女の子は、女の子からも嫌われるし、(こんな女性像を描いてしまうのは)お前に彼女がいないからだよ」「オタクだからこんな紙袋を持って歩きやがって」「自分の頭の中だけで作ったワケの分からない子供みたいなミンメイみたいなヤツ、誰からも好かれないよ」って話をしてやったりとか。で、まぁそれで怒るんですけどね(笑)。

それは怒るだろう。
ともかく、「オタク」という言葉は『マクロス』放映よりは後に生まれたので、板野発言はいくらか記憶が変容していると思われるが、全くの嘘ということもないだろう。河森氏へ率直すぎるほど率直に板野氏が意見できていたことがうかがえる。
ちなみに、上記の板野氏による悪口を読んだ後、下記の河森発言を読むと味わい深い*5

結局、そうやって参考にしたものって、映像にしてもパッと見はそれらしいものが出せると思うけれど、重さも温度も風も伝わらないんですよね。

例えば、押井守さんは「完全な創作はありえない」とおっしゃってましたけど……。もちろん厳密に言えばそうなんですけど、せめて「参考にするなら遠いメディアにしようよ」と思いますよね。あとはもう、現実ですよね。

いや、河森氏は創作論として*6非常にいいことをいってはいるのだが。


あと、映画『ロボコン』の古厩智之監督が、『マクロス』の気恥ずかしい空回りぶり、青春ぶり、私小説ぶりを賛美する文脈で、『交響詩エウレカセブン』に期待していたと語ったインタビューも印象的だった。「もっとひどい、メチャクチャになってしまえばいいのに」「でも、すごくソフィスティケイトされていましたよね」「すごく、ちゃんと商品にしようと明確に意識していた」*7という評価が『エウレカセブン』に与えられているのは珍しい。

*1:120頁。注記番号は省略。

*2:ジェット噴射の方向を変えて機体の姿勢や進行方向を変えられるノズル。

*3:超時空要塞マクロス』以前にも、『機動戦士ガンダム』最終敵メカ「ジオング」のデザインに板野氏が口を出したことは有名だ。

*4:122頁。

*5:93頁。注記番号は省略。

*6:現実において体験を絶対視すると、疑似科学に陥りやすい危険性が高い。

*7:どれも109頁。注記番号は引用時に省略。