法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『THE THIRTEENTH FLOOR』

古典的SF小説『模造世界』をジョセフ・ラスナック監督が映画化。『13F』とも表記される。数年前に購入していたDVDを今ごろ視聴。
マトリックス』の直前に仮想現実を題材として、虚構と現実のあわいを物語へ落としこんだ、ソツのない佳作。
インデペンデンス・デイ』を監督したローランド・エメリッヒ製作とは思えないほど、抑制された語り口で、こけおどしに堕さないノスタルジアあふれる仮想現実描写が素晴らしい。


面白かったのがオーディオコメンタリー。監督と美術スタッフの2人がかけあいをする。
監督が若いころに好きだった小説を映画化したという話を聞いていたが、それより先に連続TVドラマ化されており、映画に影響を与えているらしい。映画で描かれる仮想現実社会が1930年代なのも、そのTVドラマから影響されたものだとか。
気になっていたエメリッヒの存在も、ラスナック監督の言及で色々と謎が解けた。まずエメリッヒは、観客は驚く映像を求めているのだと主張し、仮想現実世界の派手な特撮*1を増やして予算をふくれあがらせた。本来はカット割りで見せるつもりだった仮想現実への移行を、CGによる映像効果で処理させたのも、観客の理解度を深めるための提言。俳優の演技だけで充分に想像力をわかせてくれた「世界の果て」を陳腐な映像で見せてしまったのも、エメリッヒの助言だという。ある意味さすがだエメリッヒ。
かなり抑制的な演出を好むラスナック監督に対し*2、ひたすら派手で判りやすい映像を求めるエメリッヒという構図が見えてきて、脳裏に映像が浮かんで笑ってしまった。
最後に少しだけエメリッヒを擁護しておくと、超過した予算や日程については、夫妻が資金を出すことで解決したという。製作者だから当然といえば当然だが。

*1:1930年代当時の米国を再現することに費やされたため、大味な印象がないことは幸いだが。

*2:特撮を使用した結末の大がかかりな映像は、三度の試写会を経て観客の期待に応えるためつけたものだという。結末の映像は不要と映画評論家から評されたことに対し、わかっているけどしかたなかったといいたげな監督がかわいい。