法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『スウィートホーム』

フレスコ画家が遺した森奥の屋敷へと、少人数のTV取材班が乗りこんだ。無思慮な取材活動をつづけていると、少しずつ不思議なことが起こりはじめ、やがて惨劇が始まる……


1989年に公開されたホラー映画。日本でありながら洋館を舞台とした、ホーンテッドハウス的な作品として完成した。
資料室 |東宝WEB SITE
伊丹十三製作総指揮による正月向け東宝大作だが、脚本もつとめた黒沢清監督との二次使用契約が訴訟にまで発展。新たな上映や放映、映像ソフト化が困難になっている。とはいえ、争点となった映像ソフトは大規模に流通したため、さほど今でも入手は困難ではない。


黒沢監督は、後に監督したサイコサスペンス『CURE』*1や心霊ホラー『回路』で、そっけないがゆえリアリティある演出で世界的に絶賛された。しかし『地獄の警備員』や『カリスマ』のように、稚拙な特撮で人工的な世界観を作りだすことも少なくない。『スウィートルーム』の場合は後者で、いかにも造形物でつくられた惨劇を真正面から映していく。
特撮技術は、やや同時代で比べても遅れ気味ではあるが*2、クオリティは悪くないし、物量も多いので満足できる。ハリウッドから技術者を呼んだ特殊メイクやプロップといい、合成を多用した心霊表現といい、ミニチュアで表現した間宮邸の外観といい、現実とは異なる雰囲気を生みだしつつ観客を驚かすことに全力をつくしているのがいい。正月映画でありながら、かなり激しいゴア表現も見られる。
屋敷のセットもかなり巨大かつ様々なシチュエーションが用意されていて、特にフレスコ画のある部屋の雰囲気はたまらない。日常の隣にある恐怖を描こうとするJホラーとは違って、非日常な場所へ行って恐怖を体験する怪奇譚と理解すれば、これはこれで完成されている作品だ。


物語は、テレビクルーの方向性が異なるまま、少しずつ過去の呪いに襲われていくというもの。意味のよくわからない呪いがふりかかる果てに、やがて家族愛がテーマとして立ち上がってくる。娘に取材を手伝させているプロデューサーの再婚話が、子供を失って狂気におちいった間宮妻と対比され、やがて力強い救出劇へとつながっていく。
全体として大人の男が情けなく*3、女性が技術を持っていたり勇気があったりする。恐怖との対峙をとおして母性の回復を描いていくという展開は、たまたま前日に観た『新感染 ファイナル・エクスプレス』*4が父性の回復を描いたことと対照的。両作品の相違点と類似点が興味深く感じられた。

*1:ふりしぼった父性が肩透かしに終わった結末の描写で、『CURE』の冒頭を思いだしたが、ひょっとしてセルフリメイクだったのだろうか。

*2:1982年のトビー・フーバー監督作品『ポルターガイスト』と同じくらいの印象。合成で登場するプロップの怪物で連想していたら、2014年の特撮イベントで黒沢監督自身が告白したというレポートがあった。第36回PFF “見えない特撮”って何?「素晴らしい特撮の世界」第二部 〔追記〕 | 今日も映画馬鹿。「映画のタッチは「ポルターガイスト」(フーパーの1作目)を参考にした」

*3:ただひとりガソリンスタンドの老人だけ、怪しくも恐怖に対抗できる知恵をさずける存在として魅力的。特殊メイクで老人となった伊丹十三とはEDクレジットを見るまで気づかなかった。

*4:『新感染 ファイナル・エクスプレス』 - 法華狼の日記