法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』そして、ボクらは旅に出た

放送時間いっぱいの、アニメオリジナル中編ストーリー。
全く期待していなかったが、なかなかの佳作。


登場人物が縮小して冒険する物語は原作でも複数あるが、今回はドラえもんが参加せず秘密道具を全く用いない展開が特長的。小さくなった状態で、知恵と勇気だけで困難に立ち向かう冒険を純粋に楽しめる。
ゲストキャラを出さず、のび太スネ夫ジャイアンの3人だけで冒険したことも、物語から無駄を削ぎ落とす効果がある。しずちゃんすら登場しないのだ。アニメオリジナルゲストが登場しないおかげで、デザイン面で原作との齟齬を感じることもない。
冒険の舞台すら、空き地から路地を経て、のび太の自室までという見なれた風景。特殊な舞台でないおかげで、縮小するだけで風景が見違えるという驚きを素直に映像化できた。
キャラクター描写にも違和感がない。特に物語でずっとネボケ続けているドラえもんにトボケタ味わいがある。最終的に誰も知らない小さな冒険という形で終え、肩肘張った感動の押し付けにならなかったため、後味も良かった。


チョロQ*1に乗ることがきっかけだったため、通常より小さくなっていることも独特の効果を上げている。空き地と道路の段差や階段の昇降だけで一手間も二手間もかけ、他の縮小話では見られないドラマが生まれる。キャラクターが極端に小さいおかげで、見なれた町の風景も摩天楼のよう。空気遠近法で遠くが霞む背景美術、煽りで高々と見上げるカット、小さくなったキャラクターを強調するようにロングショットで空間を大きく切り取った構図は、劇場映画とすら思わせる*2


作画も予想外に健闘していた。
チョロQが暴走するカットは煙エフェクト作画が特徴的で、動きもメリハリがある。短い背景動画も効果的。ジャイアン達の側を自動車が通りすぎるカットでも、ちくいちタイヤが破片を舞い散らせ、いかにも小人の視点と感じさせる。
野比玉子*3ドラえもんも影が念入りにつけられ、巨大感ある動き。


ただ、スモールライト関係は原作描写との齟齬がある。
まず、ビッグライトがなくてもスモールライトの解除光線を浴びれば元の大きさに戻れる。てっきり草むらに落として見失うとか、子供か犬が持ち去ってしまう展開になるかと思ったのだが。
また、何の注釈もなく、わずか数時間でスモールライトの効果が切れる描写も不自然*4。原作を無視したとしても、御都合主義がすぎた感がある。

*1:版権問題のためか、商品名は出ず。

*2:絵コンテは木村哲と佐藤真人が連名で担当。

*3:のび太の母親。

*4:原作の該当描写では数日が経過してようやく効果が切れている。