法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

ハルヒダンスのつまらなさ

本編から独立した映像として賞賛されている状況への違和感としては、かなり賛同できた。ただし本編を見る前なのであれば、批判ではなく疑問として発するべきエントリだったが*1
「ハルヒダンス」は何が評価されているのか? - 黒く濁った泥水を啜る蜥蜴
らき☆すた』OPのダンスは非日常を描いていたことが最終的に明かされるので、また違った意味がないではない。しかし、本編を見通した者としても、『涼宮ハルヒの憂鬱』EDは最後まで本編との繋がりが不明瞭だった。
一方で、正直にいって独立したプロモーション映像としても評価しにくい。単独で取り出して見たところで、特に心引かれるほどの映像ではない。ハルヒダンスが「リアル」でないことを主張するために現実との違いをコメント欄で並べているy_arim氏も、実質的に作画がつたない部分を指摘している*2

例2:0:22〜0:23のみくるの右腕は別セルで描かれており、下のセルに描かれた体とつながっていない(ただしこれは一般的なアニメ作画のテクニックであり、バカ正直に腕と体をつなげて描くのは無駄が多い)
例3:0:26の全員の腕回し。上体に力が入っていない。特に肩が動いていない。この腕もおそらく別セル。0:51のハルヒの肩周りの描写と比較すべし。
例4:0:55のターンの予備動作がターンに比べて少なすぎる。(ただし、一般的にアニメにおいては予備動作そのものが描けていないことが多い)

他の「一般的」なアニメと相対評価で擁護しているが、では高水準のTVアニメと比べればどうだろう。単独で見せられた者が発する疑問に答えられるほどの作画だろうか。
つまるところ、動きを設計した原画が力不足なのだ。線を整理し、指示通りに中間の絵を描く動画作業を緻密にしたところで、あくまで設計図から劣化しないというだけ*3。キャラ表*4に合わせ、細部の小物が揺れる程度なら描けても、実在感のある重心移動までは描ききれていない。kurotokage氏の「きぐるみを着て踊っているかのよう」という評*5が当てはまる。


一例として、素晴らしいダンスが見られるアニメEDで、OVAだが『ジャングルはいつもハレのちグゥDX』*6を紹介しよう。キャラクター複数が集団として統一された行動を取るかと思えば、個々人の自由奔放な態度が爆発する。秩序と混沌の強いメリハリをつけた演出で、単純な映像表現としても、番組の紹介としても高水準なEDとして成り立っている。
特にラストの村長は、振り付けとしては一見すると地味だが、神がかった腰つきが魂をゆさぶり、演出と作画が見事に融合している。
一見すると単純なキャラクターデザインだが、ただ瞳や毛髪を描きこんで情報量を漫然と増やすのではなく、ていねいな予備動作から重心移動までアニメートで表現され、重みある肉体が実感を持って描き出されているのだ。


逆に、kurotokage氏が批判するような、制作者が自由奔放に作ったEDもあり、それはそれで面白いものがある。
一例として『バブルガムクライシス TOKYO 2040』EDを提示しよう。少女が順番に映り、踊っていく。少女は物語の主人公達かと思えば、そうではない。中沢一登*7が「好きにやらせてくれるならやるよ」という条件で、「「踊り」というのは難しそうなので一度描いてみようと考えたんですよ。あとは自分なりに考えたSFっぽさが出ればいいなと思ったんですね」*8という自由な動機でEDアニメーションを担当した。はっきりいえば本編の内容紹介として不適切というしかないEDだが、独立して見ると洒脱で技術的にも高度な楽しめる映像ではある。


作品の象徴としては駄目でも、映像として面白いOPやEDというものはある。逆に、映像技術はつたなくても作品紹介として適切なOPやEDもあるだろう。
だから映像技術はいうほどでなく、作品の顔としても首をかしげるハルヒダンスが実質以上に高い評価をされていても、笑って見すごしてもいいのではないか。アニメは多様な表現を内包できるのだから。

これからアニメが“動きのリアル志向”で進んでしまうと、かつてのTVゲーム業界(2Dから3Dへと移行していったリアル一辺倒の辺り)と同じ愚をおかしてしまうのではなかと。

確かに動画枚数を漫然と増やす方面、京都アニメーションの撮影演出が絶賛されていた時期は、似た危惧を持っていた。しかしデフォルメされた作画でそれなりに受け入れられた*9グレンラガン』が受け入れられたことを思うと、そこまで心配しなくてもいいのではと思い直している。

*1:精神的に弱っているような時、炎上を求めてエントリを上げるような自傷行動は、横から見ていて心配にもなった。

*2:おそらく自覚的にだろうと思うが。

*3:まれにアニメーターが勝手に動画で原画を変更することもあるが、番組の顔となるOPやEDではそれも難しいだろう。

*4:キャラクターの全身図や表情等、複数のアニメーターが参加するアニメ作品で絵柄や方向性を統一するための資料。

*5:直接的にはアイドルマスター動画に対する評だが、ハルヒダンスと似た問題として扱われている。

*6:ギャグアニメとしても単純に面白く、作画も全体的に高水準で、しかも子供向けなためOVAとしては安価だ。さらにシリーズをシンエイ動画が制作しているため、TVからOVAまで京都アニメーションが制作協力した回があり、山本寛の演出も見られる。京都アニメーション作品が好きならば一見の価値はあるだろう。

*7:アニメーター、演出家。『VIRUS』ED、『ロードス島戦記 英雄騎士伝』OPED、『BLOOD+』二期OP等、本編よりも雰囲気の良いOPやEDを多く作っている。現在は『明日のナージャ』キャラクターデザインで有名か。

*8:アニメスタイル』第1号54頁。

*9:それでも第4話は騒動が起きたが。