法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

今枝仁弁護士が光市母子殺害事件の弁護人から降りるという宣言

ただし即座に撤回したのはご存知の通り。
http://beauty.geocities.yahoo.co.jp/gl/imajin28490/view/20071015/1192419161

本日朝、被告人と1時間ちょっと話し合い、結論として、弁護人を辞任しないことにしました。
被告人が、「絶対に辞めないでほしい。今枝先生に弁護してほしい。」と言う以上、他の弁護人が「辞めてもらわないといけない。」と言うからといって、辞めることはできません。

実際、「明日一応被告人に説明をし、弁護人を辞任します」*1という文章には軽い引っかかりをおぼえていたのだが……
何にしても、突然の辞任発表に陰謀論を並べるのはたやすいが、即座に撤回したことで単に拙速だっただけ、という話に落ち着くだろう。


ともかく、いくつか見えてきたこともある。
まず弁護団は画一的な考えを持つ集団ではなかったという点。もちろん死刑廃止論者の安田弁護士と、死刑存置論者の今枝弁護士の思想が混在することは前から判明していた。より一層はっきりした、というところか。死刑制度の議論で仲違いしたわけでは全くなく、基本的には弁護方針で対立した、という点にも注意。さらに最新のエントリでは、今枝弁護士独自のメディア対応も軋轢を生んでいた可能性が語られている。つまり橋下弁護士の扇動や、それを安易に賛同した人々が弁護団の分裂を招いたともいえる。そして分裂は必ずしも被害者遺族の利益になる状況ではない*2
また、今回の審理で弁護人が行える弁論や活動はほぼ終了しており、今は裁判所の判断を待っている状態。つまり辞任を発表した時すでに、今回分の弁護活動はやりきっていた、という評価もできる*3。もちろん判決が出た後に上告される可能性は高いが*4、そういった時に弁護人が交替することも珍しくない。つまり今回の辞任を珍しく感じるのは、速報的に弁護人自身が事情もふくめて即座に発表したからだろう。弁護士は世間に可能な限り説明せよという橋下弁護士の主張に、今枝弁護士が乗ってしまったため起きてしまった状況だ。
そして、弁護団全体は法医学的な検証にこだわっていたという*5。言ってみれば今枝弁護士こそ動機、極端に呼ぶならば“情”に目を向けようと主張していたわけ。むしろ今枝弁護士の離脱説明によって、弁護団が証言を捏造し情状酌量ばかりを求めているという難癖は、完全に破綻したといっていい。


なお、最初の辞任発表時も、全く事件に関わらなくなったというわけではなく、被告人の身元引受人になるという話もしていた*6江川昭子氏の経験*7からなる助言も受けたそうだ。
つまり裁判から逃げるどころか、むしろ被告に強くよりそおうとした結果として他の弁護人と溝が生まれたらしい。


とりあえず外野からの感想として、理の安田弁護士と情の今枝弁護士が補いあえず、衝突したことは残念。
また、今後の光市母子殺害事件裁判は混沌とするかもしれないが、懲戒請求者や橋下弁護士にとって朗報という話にはなりえないだろう。被告人の身元引受人にまでなった以上、けして引き下がらなくなったと認識するべき。
そして今枝弁護士は人生経験は豊富と思うが、ネットについてはくわしい弁護士からから助言をもらうべきだったかもしれない*8機種依存文字を使用していたり、明らかに慣れていないところが見られる。
最後に、今枝弁護士は家族持ちなのだし、本当に身体は気をつけてほしいところ。

*1:http://beauty.geocities.yahoo.co.jp/gl/imajin28490/view/20071014/119233652に【この問題は以前から発生しており、被告人自身は、「今枝先生に降りてほしくはないけど、最終的には今枝先生自身で決めていいよ。」と言われています。】という文章もあるので、即座に発表してしまった理由もわからなくもないが。

*2:被害者遺族の存在を強く意識している今枝弁護士を弁護活動から遠ざける結果になったのは確実。

*3:追記。弁護側の最終弁論は残っている。

*4:検察側と弁護側が強く対立している現在、双方が納得する判決が出るとは考えにくい。

*5:「法医学の論点ばかり重視して、他の論点がおろそかである。今日の議題も法医学ばかりではないか。そういうことであれば私は今後弁護団会議には出席せず、自分で『戸別訪問は強姦の計画性でなかった』『現在の反省と将来の更生』等の検討を独自にする。」とは会議で今枝弁護士が行ったという主張。http://beauty.geocities.yahoo.co.jp/gl/imajin28490/view/20071014/1192336523

*6:裁判の後まで弁護人に責任を負わせるべきという暴論を各所で見たが、それが今枝弁護士の決意をうながしたのであれば何ともいいがたい。

*7:http://www.egawashoko.com/c006/000237.htmlこの裁判とは別個に、興味深く相当に重い出来事。

*8:もっとも、たとえば小倉秀夫弁護士のブログは小倉先生ならではの芸風だから、あまり参考にならないと思わなくもない。