法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』カワウソのび太の大冒険

藤本信行脚本によるアニメオリジナル中編。
予告を見て「オオカミ一家」をニホンカワウソ版へアレンジしただけかもしれないと不安だったが、予想以上に独自性ある内容だった。中盤こそ酷似しているが、予告で描かれなかった序盤や終盤は全く別の物語が展開される。


まず前半のカワウソ発見からして、のび太がタイムマシンで見に行った時に誤って現代へ来てしまったというタイムループ展開が楽しめる。ドラえもんの口から何度も絶滅したと念押されることで、実際に絶滅したと思われる現実世界との整合性も増す。カワウソを江戸時代へ戻した時に現代に生き残っていたカワウソと遭遇するが、ここでも戻すために使用した秘密道具の特性で、別のカワウソが現代に来たのかもしれないという誤解を生んで、時間SFとして話を引っぱる。
そうして遭遇したカワウソ兄妹を助けるわけだが、のび太が妹を助けたことで、兄が嫉妬めいた感情を見せるラブコメ展開となったところが面白い。さほど擬人化されていないカワウソにキスされる結末なんて、ケモノ好きにはたまらない描写かもしれない。
その場にとどまっても人間に発見されるのを待つしかないので、江戸時代のカワウソが語った「楽園」を目指す冒険劇*1もダイナミックな場面が多くて映像的に楽しめた。野生化したアライグマが襲ってきて、わずかながらも外来生物問題へ言及したところも好印象。


しかし楽園が実際に存在し、その風景も花畑が広がる映像で描写され、良くも悪くも作り物めいた結末となった。あまりに絵空事な映像なので、幻覚か死後の世界かと思ってしまったほど。野生動物の楽園なんて幻想の中にしか存在しないと解釈すれば、毒の強い風刺といえるが。
また、追っ手がカワウソ探索をあきらめる姿も説得力がなかった。せっかくドラえもんの後姿を撮影して「カワウソというよりタヌキ」と評する場面があったのだから、カワウソは痩せたタヌキの見間違いと結論づけるオチをつけたりもできたはず。

*1:絶滅寸前の獣が「楽園」を目指す物語は、どこかで見た記憶があったが、いろいろ思い返して『WOLF’S RAIN』のことと気づいた。ここで狼の物語に戻ってきたのは不思議な因縁を感じる。

『クレヨンしんちゃん』大物を釣るゾ/SHIN-MEN

Aパートもけっこう手癖で作画されていて楽しい。船釣りと合コンをかねた企画で彼氏さがしにあせる保母と、それに乱入する幼稚園児やその父という構図が、何とも生々しすぎた感はあったが。


Bパートは湯浅政明コンテ演出作画監督で、期待通り。
女王として国を統べる顔面状態の島*1に対して、素材をいかして美しくしようとエステするSHIN-MENスィと、欲望のまま無理やり国土改造していくTON-MENのバトルからして、爆笑もののナンセンスさ。
やや序盤の作画はおとなしいが、SHIN-MENの活躍はやはりシンプルな絵で面白い動きを見せる。怒りでスィが暴走する描写はキャラクターの発狂ぶりもよく表現されていて、普段がシンプルな絵柄ゆえの対比で背筋が凍りそうになった。

*1:この時点で見てない人には意味不明。

『地球が静止する日』

モノクロ映画『地球の静止する日』のリメイク。ゴールデン洋画劇場で視聴。
キアヌ・リーブスが救世主だの裁定者だのを何度も主演するのは、映画『リトル・ブッダ』でブッダを演じた因縁のためという妄想が脳裏をよぎった。


今一つという評判を聞いていたが、地球環境を汚染する人類へクラトゥが裁きを下しにくる古臭い物語を、それなりに真面目に映像化した小品と見れば楽しめなくもない。
新世紀エヴァンゲリオン』を思い出させる地下で拘束された巨人ゴートの暴走は良かったし、クラトゥとカール・バーンハート教授の議論も理屈がそこそこ通っていた*1
ただ、頑迷すぎる米国防長官のキャラクターは、風刺性を強く感じるからこそ戯画化されすぎていると感じた。むしろ本人は異星人に対して友好的でありたいが立場が許さないという描写にしてほしかった。結末が予定調和すぎ、それでいて爽快感もなく投げっぱなしな中途半端さも難だったな。

*1:互いに計算式を黒板へ書きつづる描写も良かった。対立する者のアドリブ的セッションというシークエンス自体が個人的に好きなのだ。