参事官の中園が姿を見せない。周囲を探った特命係は、中園が退職後の趣味を見つけようとしていたことを知り、道路でキーホルダーを見つける。そのころ警察には中園を誘拐した映像が送りつけられた。誘拐犯は、かつて中園が会見で批判した私人逮捕系配信者を名乗る……
 岩下悠子脚本による中園照生フィーチャー回。無理やりな私人逮捕でアクセスを稼いで警察からにらまれる配信者という最新の社会問題から、古典的な老後の趣味として選択される盆栽まで、さまざまな要素が中園という男を中心に奇妙な事件をつくりだす。
 顔を隠した誘拐犯が私人逮捕系配信者ではないことは誰でも予想できるし、その配信にかかわった被害者が誘拐犯になったことも意外というわけではないが、堂々と顔を映す大胆な演出には驚かされた。さりげなくモブに犯人をまぎれさす演出だけなら斬新とまではいわないが、違う場所のモブが同一人物とはまったく気づけず感心した。そのモブが登場する場面が、視聴者の意識を別の方向に誘導する状況に設定していたのもうまい。
 配信者への復讐だけなら警察関係者、それも配信者を強く批判した人物を傷つけるだろうかと疑問に思っていたが、冤罪であっても数日間は拘留したという説明で納得。現実の迷惑系配信者に対する行政や警察の悪い意味で中立的な態度を思い返せば予想してしかるべきだった。
 さらに中園が警察からはなれた場所で人間関係をつくりだして、誘拐犯が接触するきっかけにもなった盆栽教室をめぐっても、さらに二転三転する情報が流される。
 教室をひらいている女性が中園に不倫を演じるようたのんだ意味について、細かな動きや指示から裏の裏の意図まで解きあかす杉下の推理がすばらしい。
 そうして最終的にあばかれた真相は、ミステリにおいて古典的にすぎて意外性に欠けるものの、終盤で一挙に推理されることでストーリーが濃密で満足感があった。
 今回の物語をふりかえってみると、さまざまな思惑の犯罪者が偶然に中園を利用しあったことにご都合主義を感じなくもない。しかし誰もが中園を過大評価したことで恐怖され利用されたことに一貫性があり、こういう趣向の犯罪劇として完成されている。
 普段は「腰巾着」でしかない中園だが、組織からはなれて一般人のなかに入ると、地位の高い警察幹部と見なされ、快活で好感をもてる人柄として歓迎される。そこにミステリらしい意外性が生まれるとともに、キャラクタードラマとしての面白味が出ている。