法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

法務省の広報マンガ『桃太郎と学ぶ民法(債権法)改正後のルール』が色々な意味で面白い

yasei_desk氏のツイートで知ったが、たしかに広報や啓発を目的とした漫画として興味深い内容だった。

問題の漫画はPDFファイルで政府ドメインにアップロードされている*1
http://www.moj.go.jp/content/001311772.pdf
いかにもファミリー向けの絵柄で、昔話のキャラクターを現代的なトラブルに直面させて、法律の説明をおこなうという形式。見た目は単調で期待しづらい。
しかし読んでみると、ただでさえギャップがある昔話の世界観と堅い法律説明に、淡々としたボヤキで奇妙な生活感がくわわり、シュールな雰囲気をかもしだしている。


昔話の善悪をひっくりかえしたりするパロディなので、キャラクターも状況設定もわかりやすい。
さらに世界観が過去であることや、擬人化動物をつかっていること、説明役が女性であること*2などで、解説漫画が批判されがちなさまざまなバイアス*3を回避できている。
とはいえ、上記までは珍しくない工夫だろう。すごいのは、冒頭いきなり解説役によって主人公がトラブルに巻きこまれる、理不尽なスピード感。

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あえて明らかなマッチポンプにすることで、こうした漫画の御都合主義をメタフィクション的に解消しつつ、解説役と相槌役に上下関係が生まれない。これほど主人公に共感しやすい解説マンガは珍しい。
さらにトラブルごとにキャラクターの法律における優劣が変わり、先読みできない展開に意外な読みごたえがある。それでいて法律を盾にする鬼といったキャラクターの一貫性は守られている。
つまらない長台詞という下手な広報漫画がおちいりがちな問題もない。基本的に短いかけあいでコマを進め、長々と条文をひく台詞はうまくギャグで流して要約につなげている*4


ちなみに「マンガ:ほんままり」というクレジットから検索すると、広報漫画の制作会社「マンガ製作所」に登録されていた。
ほんままり|漫画家詳細|【マンガ製作所】安心料金設定|高品質な漫画制作・イラスト制作
しかし掲載されているサンプルは平凡な印象で、良い意味でのシュールな味わいは感じられない。
漫画家個人のサイトも見つけたが、仕事を募集をするシンプルな内容で、やはり実際の漫画の面白味がつたわってこない。
Mari's illustration
多くの広報漫画の実績から、技術がある漫画家とはわかる。しかし一頁に情報をまとめたような漫画が多くて、あまり良さが出ていない。

*1:なぜか異様に画質が悪いが、印刷を意図していないのだろうか。

*2:ただし、現代人が古代人に対して知識で優越するパターンであることには変わりない。そこで関係の上下が生まれない工夫は後述のとおり、キャラクター設定とは違う次元でおこなわれている。

*3:この点では、自民党憲法改正解説漫画がひどかったことが記憶に新しい。 hokke-ookami.hatenablog.com

*4:14頁等。