法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『名探偵コナン ベイカー街の亡霊』

 ひとりの天才少年が高層ビルの屋上から姿を消した。それから少しして、VRゲーム「コクーン」のお披露目会があり、50人の子供たちがプレイヤーとして参加した。
 しかしそのお披露目の裏で殺人事件が起き、プレイヤーの子供たちは「コクーン」にとらわれて本当に命がけのゲームをせまられる。そのプレイヤーのなかに江戸川コナンもいた……


 2002年に公開された劇場シリーズ6作目。タイトルの「ベイカー街」は「ベイカーストリート」と読ませる。実写脚本出身の推理小説家、野沢尚を脚本にむかえたことでも話題になった。

 冒頭の子供の自殺などシリーズのタブーをおかす描写はありつつ、ファンには初期の傑作あつかい*1されている一品。探偵も犯人も被害者も、どれも親と子のドラマで一貫しているところは良かったし、多くのキャラクターを整理して物語をわかりやすくさばいているところも感心した。
 ただし江戸川乱歩賞作家のオリジナル脚本で期待させるわりにはミステリとしては甘い。現実パートの殺人事件は証拠につながる台詞の伏線など悪くないが、犯行の瞬間も犯人もはっきり見せているので倒叙ミステリとして楽しむしかない。そもそも、わざわざ容疑者が限定される閉所で殺す意味がない。せめて衝動的な殺人として描くべきだったのではないか。
 VRゲーム内の謎解きにいたっては最初からゲーム的で、伏線を隠すのではなくヒントをあたえるかたちのクイズになってしまっている。しかもクライマックスが、車内のジャックザリッパーを特定する手がかりを観客が気づけないものにしていることが痛い。


 しかし「小説家になろう」などでWEB媒体で流行したVRゲーム作品として見ると、先駆作のような面白味がある。特に1作目の『ソードアート・オンライン*2にジャンルからシチュエーションまで似ている。VRゲームで脳を焼き切るシステムや、真犯人の居場所などの細部にも共通点がある。
 もちろんゲームのディテールが根本的に異なるので盗作と呼べるほど酷似してはいない。もともと『ソードアート・オンライン』は2002年にWEB小説として発表されて人気をあつめてから商業化したので、それぞれの制作期間を考えると一方が盗作したとは考えにくい。ただ細部がよく似ていることも事実なので、両作が影響をうけた共通の元ネタがあるのかもしれない、とも思った。

*1:あくまでWEBアンケートだが、「アニメ!アニメ!」が2023年に発表したランキングでアナログ時代から唯一3位にランクインしている。 animeanime.jp

*2:TVアニメ1期でいうと1クール目にあたる。