法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『京城学校 消えた少女たち』#邦キチー1グランプリ

 放課後の部室。椅子にひとり座って天井を見あげる部長。


部長 「いや~ 配信で観た、リメイク版の『サスペリア』よかったな。洋画は良くも悪くも遠い世界に感じるものだが、全寮制サスペンスは見なれた学校に近いことが多くて実感しやすい。ちょっと途中からはトンデモ展開に感じたが、それも味だ」


 部長、机のノートパソコンを開いて、配信サイトを画面に出す。
SUSPIRIA
 急に横から邦キチ出てくる。


邦キチ「おおっ部長もあの映画を見たのですね?」
部長 「ああ おまえも好きそうな少し変な映画だったが……楽しめた! 勧めてくれたヤンヤンに感謝だな っていつからいたんだ?!」


 部長のとなりに座って、配信サイトを見る邦キチ。白い服の少女たちのイメージが浮かぶ。
エコール(字幕版)


邦キチ「このジャンルは 一作目の『サスペリア』『フェノミナ』『エコール』『ミネハハ』」
サスペリア (字幕版)
邦キチ「邦画でも『エコエコアザラク』『零~ゼロ~』『暗黒女子』傑作ぞろいですね~」
劇場版 零~ゼロ~
部長 「全部が全部そうでもない気はするが、たしかに一作目もサイケデリックな映像美がよかったな~」


 部室の窓の外は雨。


部長 「数年前のホラー映画だが ちゃんと数十年前の雰囲気があるのも 想像力を刺激させていいよな」
邦キチ「レトロな建物がいいのですよ~」
部長 「綺麗で可愛い子もたくさん出て画面が華やかだ」
邦キチ「部長はそこを楽しむのですね~」
部長 「……」
邦キチ「最初は何が起こっているのかさっぱりわからないのもいいのですよ~」
部長 「同じ不条理ホラーでも、主人公が大人だと行動しまくって雰囲気が変わるからな。若い女性しか出ないジャンルならではだ。スマホもインターネットもない時代…外の世界から切りはなされて…少しずつ消える仲間たち…出口のない謎めいた日常」
邦キチ「まるでふたりだけで部室にいる いまの私たちでありまする」
部長 「……」


 ノートパソコンを注視している邦キチ。
 その横顔を見る部長。


部長 「(そうだよなこいつ ああいう映画に出てもおかしくないんだよな黙っていれば)」
邦キチ「主人公が日本風の名前をもたされてるところは『お嬢さん』を思い出しますねー」
お嬢さん(字幕版)
部長 「えっ 日本風に名前を変える?」
邦キチ「それに黒幕が日本軍なのは予想通りでしたが真相までは見ぬけませんでした~」
部長 「えっ 日本軍?」
邦キチ「現代ホラー映画のトレンドにのって 社会派テーマもバッチリです」
部長 「…いや待て待て待て いったい何の映画の話をしているんだ?!」
邦キチ「もちろん女子校ホラーが何度もヒットを飛ばしてきた韓国で、2015年に公開された大作ホラー『京城学校 消えた少女たち』の話ですよ~」


京城学校:消えた少女たち(字幕版)


部長 「さっき一作目のサスペリアって言っただろ! じゃあ…シリーズのリメイクの話題って思うじゃないか」
邦キチ「あれはジャンル作品をならべただけですが…『サスペリアPart2』は日本で勝手に続編風タイトルをつけた過去作品ですし、監督の最新作の『サスペリア・テルザ』は閉鎖環境ホラーじゃないですよ?」


 部長が変なことを言ってるかのように不思議がる邦キチ。


部長 「それに韓国映画ヤンヤンに紹介されたりして 少しチェックするようになったが そんなタイトル聞いたこともないぞ」
邦キチ「ミニシアター映画ですが『京城学校』はたいていのサブスクで見放題ですよ?」
部長 「サブスク全部をチェックするのって大変だぞ?」


 無視して説明をはじめる邦キチ。


邦キチ「映画の舞台は日本の植民地時代の韓国。山奥深くにつくられた全寮制の女子校です。日本の意向で厳しい花嫁修業をさせられている女生徒たちですが、学校で怪奇現象が起きる噂におびえています。そこに体の弱い少女ジュラン 日本名「静子」が転向してきます。演じるのは『私のオオカミ少年』のパク・ボヨン。かつて同じ「静子」という日本名がつけられた少女がいましたが、いまは姿を消していることがわかってきます」
部長 「そこまでは定番のホラーだな」
邦キチ「周囲から距離をとられるジュランですが 級長の「和恵」ことヨンドクとだけは仲良くなります。そして学校をぬけだそうとしたふたりは想像以上に強大な日本軍の光景を目にするのです!」
部長 「ううむ…今の韓国映画なら 日本を単純悪にはしないか。おまえが前にすすめていたコクソンも、怪しい日本人を信じられるか韓国の観客に問いかけてて…日本人の俺としては 韓国人の監督が日本人を信じていることを信じられるか問われている気分だった。考えさせられた」


 真面目な顔で腕組みをして、しかし娯楽としての面白さを思い出して口元がニヤけてしまう部長。
 両手をさしだしてくる國村準のイメージ。
哭声/コクソン(字幕版)


邦キチ「この映画の日本軍は もちろん完全悪でありますよ」
部長 「ええ…う~ん そうなると複雑な気分だな」
邦キチ「おや部長はナチスが悪役の映画も苦手な嫌なタイプでありましたか?」
部長 「うん…たしかに当時の日本はドイツと同盟をくんで戦争してたな。外国じゃ同列にされるのは当然か」
邦キチ「この学校では日本軍が女学生を人体実験して 超人を作っていたのでありまするよ」
部長 「ナチスドイツはナチスドイツでも マッドサイエンティストとかそっちのほう?!」


 驚く部長。『アイアン・スカイ』のイメージ。
アイアン・スカイ(字幕版)
 笑顔でうなずく邦キチ。『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!史上最恐の劇場版』のイメージ。
戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 史上最恐の劇場版 [DVD]


邦キチ「そして女学生の反乱がはじまり ワイヤーアクションで戦いがくりひろげられるのです!」
部長 「ワイヤーアクション?!」
邦キチ「悪の日本軍を女学生がバッタバッタと倒していく展開は燃えまする~」
部長 「ちょっと待てワイヤーアクション?!」
邦キチ「同じ学校アクションの『暗殺教室 卒業編』みたいな、今どき珍しい吊られてる感たっぷりのワイヤーアクションが楽しいのです」
部長 「知らない映画を 知らない映画でたとえられても つたわらん!」
暗殺教室~卒業編~
部長 「聞いたかぎりじゃ現代韓国映画のクオリティとは思えん…」
邦キチ「そしてなんといっても手間のかかった刺繍ですね~あれはビックリしました」
部長 「刺繍って縫い物のやつか? たしかに女子校らしいがビックリする要素があるか?」
邦キチ「こんな感じでござりまする~」

 
 配信サイトでそのシーンを呼びだす笑顔の邦キチと、見せられて青ざめ言葉を失う部長。
 読者にはノートパソコンの背しか見えない。
 雨がやまない窓の外は闇に沈んでいる。

「#邦キチー1グランプリ」の開催を知った時、まず『映画ドラえもん 緑の巨人伝』が脳裏に浮かんだ。

 しかし原作の『STAND BY ME ドラえもん』回で部長は『ドラえもん』が好きと公式に語られているため、設定の整合性が難しくて断念した。
 また、他にあげている人がおらず、作者が確保している映像ソフトにもないタイトルから選ぼうと考えて、最終的にこの映画を紹介することにした。

 ツイッターで募集していたので最初から正式な参加はできないが、賞賛するのも批判するのも難しいが語っておきたい映画について書く良い機会になったことがありがたい。
 いつもは読まれることより自分にとっての記録を優先して書いているが、きちんと作品をプレゼンする難しさもあらためて実感できた。