法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『名探偵コナン 緋色の弾丸』

国際的なスポーツ大会のスポンサーとなった大富豪が連続誘拐される事件があった。十数年後、今度は日本での開催を受けて、やはり誘拐と思われる事件が発生するが……


FBI捜査官の赤井秀一と、その家族をフィーチャーした2021年公開の劇場版*1金曜ロードショーの地上波初放送による本編ノーカットで視聴した。

スタッフクレジットも高速で流れつつ、おそらく省略されていない。森久司が原画にいたが、やはりヒーローショーにおける仮面ヤイバーの登場シーンだろうか。
しかし全体的に3DCGが露骨で、映像が無機質。作画の見どころもそう多くはない。橋本敬史がエフェクト作画監督に入っていて、さすがの爆破シーンを描写しているが、そもそも今作は先述のヒーローショーもふくめ、ビジュアルのテンションとドラマのテンションが不一致で、あまりもりあがらない。


ドラマの構図は冒頭で説明される。赤井秀一世良真純といった赤井家の者たちが異なる思惑で衝突して事件を混迷化させていく。良くも悪くもスパイ映画をスケールの小さな家族ドラマにおさめた雰囲気。
物語の本筋は三題噺のよう。五輪がモデルだろう4年おき開催の国際スポーツ大会WSGと、真空状態のトンネル内で時速1000kmで疾走する超電導リニアモーターカー、そこに異なる諜報組織がいりみだれる。


まず舞台背景のスポーツ大会については、特に肯定しすぎることもなく、あくまで誘拐の対象になる有力者を集める装置に徹していたところは良かった。日米をまたにかける物語だが、国粋主義や排外主義を煽ったりはしない。巨額の金銭が動くことが事件の動機になるあたりに商業主義批判を感じなくもない。
たぶん五輪と特定できるモチーフをつかえば巨額の使用料が発生するのだろうが、意図はどうあれ巨大イベントと距離をとったことで、その問題が露呈した現在に視聴しても物語への違和感がない。


次に、リニアモーターカーは未来技術としては時代遅れで、現実の開発事業においては問題が噴出しているわけだが、後述のトリックの関係もあって技術的な架空性が高く、現実とは別物として見ることはできた。
無人で暴走する高速列車に少人数でとじこめられるシチュエーションも、モノクロSFドラマ『ウルトラQ』の1エピソード「地底超特急西へ」のようで、レトロぶりがいっそ気持ちいい。

密閉されたトンネルでリニアモーターカー内の人物が外部の第三者に狙撃される、きわめて科学技術的なトリックは面白かった。2000年前後に流行した最新技術を応用したトリックを、この作品らしい超人技術のリアリティで成立させてみせた。電磁誘導されて音速で走るリニアモーターカーに、同じく電磁誘導された弾丸がいつまでも追いかけつづけていたイメージは絵になる。
ただほとんど無人リニアモーターカーで捜査するというシチュエーションで、単調に時間が流れる場面が多いのは難点。被害者が運ばれた痕跡をたどる描写などは、もっと短く編集しても良い。もしくは、無人の座席がならぶ光景の空々しさを強調しても良かった。


最後に諜報組織のドラマだが、どうやら冤罪でFBIにつかまって収監されたまま死亡した人物の復讐劇らしいことがうかがえ、4年後に模倣犯が捕まったことが途中で語られ、そのまま復讐者との戦いで物語が進行する。
つまり発端の誘拐事件の真犯人について放置されたまま、最後のCMをはさんで残り10分未満になっても言及されない展開に本筋とは異なるサスペンスを感じていたら、一応はオチらしいオチがついた。
複数犯による複数の誘拐事件で、ひとつの事件にアリバイがあるだけでは、たしかに無罪の証明にならない。しかし謎解き重視のミステリならば、その事件だけ家族サービスのため参加しなかったとか、何らかの説明は必要だろう。
そもそも子供向けゆえ犯罪者に同情させない作風で、さまざまな公権力が活躍する劇場版において、権力への復讐劇は相性が悪い。いったん疑われたことで公権力の正しさが強固になるのは良いとして、露呈した公権力の問題はすべて正義のためとして肯定されてしまう。
事件関係者を守るための「証人保護プログラム」が今回の復讐犯の正体を隠しただけでなく、復讐犯にとって過去の事件の全体像を見誤らせて犯罪にはしらせた構図は皮肉で悪くないが、その真相は公権力側にとっても落度だろう。目前の復讐犯に対しては毅然とした態度はとるとしても、運用のありかたを見直すオチくらいは入れてもバチはあたるまい。

*1:新型コロナにより当初予定から1年延期。