法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『低俗霊DAYDREAM』

普段は風俗産業の女王様としてはたらく口寄せ屋の崔樹深小姫。霊を見て、その声をつたえられる人間として、東京都から依頼されて事件を嫌々解決していくが……


奥瀬サキの漫画「低俗霊」シリーズで、目黒三吉が作画を担当したバージョンを、ハルフィルムメーカー制作で関田修監督がOVA化。

全10巻で完結した漫画作品の連載中盤、第6巻が発売された時期、2004年の映像化。
主人公周辺や世界観の簡単な設定説明と少女の出会いを描いた第1話、その少女との再会からはじまる恐怖で世界観を深堀りする第2話、原作者原案によるオリジナルストーリーを前後編で展開する第3話と第4話という構成。
繊細な描線と柔らかい彩色の原作と比べて、描線が太く作画が簡素。下着や乳首がはっきり何度も映るが、コンポジットによるグラデーション技術などがまだ広まっていない当時にしても線や色に艶があまりなく、結果的にせよB級ホラー作品として見やすい。これが実写作品なら、女王様装束の主人公でシリアスなドラマを演じるのは難しかったろう。

そのように主人公は高慢さを職業として演じているが、日常の性格は下ネタを堂々とおこないつつもダウナー。それが前例的な退魔作品にない刺激と、バブルの狂騒が完全に終わった閉塞した時代を感じさせる。
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物語も社会で分断され孤立した人間の姿を淡々と映していく。闇社会はもっと深く、霊能力を獲得してしたってくる少女を主人公はつきはなす。霊というかたちで記憶される人々の痛みによりそうことはできるが、そうした過去の出来事は静かに蓋をしていくしかない。
ただし第2巻のブックレットで、低俗霊の女性が怨みをふりまいている動機として、「醜い女に生まれたことで、この世に恨みを持っていた」と説明しているのはどうなのだろうか……もちろん差別的な思想を被差別者が内面化して苦しむことは現実の問題でもあるが、いやしかしそういう背景設定を選択した作り手*1は被差別者では必ずしもないわけで……


ちなみに、特典映像の声優実写コンテンツがけっこう楽しい。手間をかけているわりに安っぽいし、特に斬新なわけでもないが、声優バラエティコンテンツをアニメ作品内にもとりこもうとしていた時代性を感じる。
特に第2巻は約三十分にわたって稲川淳二の怪談を声優ふたりが聞くコンテンツになっていて、好きな人は楽しいのではないだろうか。もっともホラー映画や怪談小説は怖がることができるが、怪談はあまりそのように楽しめないな、という感想になったが。

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なお、あくまで引用した画像は怪談を拒否する理屈として口走った言葉*2。第3巻の特典でふれられているように発言者の浅野真澄がエッセイストとしても活躍している文脈があるからこそ味わいが出ている。

*1:ブックレットのライターが勝手に書いた、もしくは裏に隠すはずだった設定を公開したという可能性もあるが。

*2:第2巻、開始26分28秒ごろ。