法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

五輪反対デモを河瀨直美氏が無断で撮影したこと自体は、ドキュメンタリ制作において一般的に誤りとは思えない

hokke-ookami.hatenablog.com
上記エントリで言及したデマが生まれた経緯について、いまだ明確な説明はどこからもおこなわれていない。
NHK側も河瀬氏側も情報を発信していないし、デマを流されたデモ関係者への明確な謝罪もなされていないようだ。


しかしそれとは別に、河瀨氏がデモを撮影していたことを「隠し撮り」と抗議する意見がデモ関係者から出ていることが気になっている。


五輪に反対する一般市民を撮影する河瀨直美監督。撮影を拒む市民をチャカしているようにも見える仕草。まるで迷惑系ユーチューバーのようだ。国家公認の映画であることが彼女をここまで強気にさせたか。様々な疑惑が浮上している以上、この作品は制作を中止すべきだと思う。

デモ側から撮影された映像には、護衛のようなスタッフにかこまれて撮影していた河瀬氏が抗議されて一礼し、去っていく姿が映っている。


河瀬直美や他のスタッフは五輪反対デモを隠し撮りしておきながら、目の前にいる私たちに1人も取材しなかった。なのにどこから連れてきたかわからないおじさんに取材して「金をもらっている」と印象操作“ / @humansystem
01.16 渋谷


たしかに、五輪側の記録者として選ばれた河瀬氏がデモを作品の素材とすることに、デモ側からさまざまな懸念があることは理解できる。デモ側が抗議をおこなうことが不当だとも思わない。
そもそも、そのようにデモ側と対立する取材をしていたからこそ、信頼関係をきずけず第二班的な島田氏に取材させることになり、それでも深く広く取材できなかった結果としてデマを生んだのかもしれない。デマの字幕はNHKがつけたと説明されているが、島田氏自身も反対者にさまざまいるという見解のなかで「プロ」もいると語っていた。
だが河瀬氏が五輪側の公式な記録者として選ばれた以上*1、中立的なドキュメンタリは最初から期待するべきではないだろう。事実の歪曲などをするならともかく、その作品が五輪側の視点で反対デモを切りとることは観客側が予期して、念頭におきながら鑑賞するべきだろう。


もちろん肖像権について社会の意識は変化しているし*2、街頭の雑踏を撮影するさいに個人が特定できないようボカシをかけるTV番組も珍しくない。
しかし逆にいえば個人を特定しない情景としての撮影は現在でも許容されているし、個人が特定されるような撮影であっても報道として意義が認められる場合はあるだろう。
河瀬氏の「隠し撮り」が一般的なドキュメンタリの手法ではないとは思えない。むしろ一般的なドキュメンタリに、良くも悪くも「迷惑系ユーチューバー」的な側面があると考えるべきではないだろうか。

*1:そのように権力的な巨大イベント側から選ばれて請けること自体が、五輪反対の観点から批判されることも当然ではあるだろうが。

*2:そもそも肖像権の概念が認められたのは半世紀ほど前、デモを警察が写真撮影したことをめぐる裁判でだった。