法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』スリルブーメラン/大予言・地球の滅びる日

今回は前後とも中期原作からアニメ化。氏家友和演出に小野慎哉作画監督*1というスタッフワークで、アニメーションとして極めて良好。


「スリルブーメラン」は、ジャイアンの冒険を賞賛させられる雰囲気にのび太が反発して、自身が冒険をするように強要されてしまう。そこでドラえもんは一瞬のスリルを味わう秘密道具を出す……
さまざまな場所に一瞬だけ瞬間移動して戻るというワンアイデア短編を、そのまま素直に映像化。一本杉にのぼった時のカメラワークで高さを強調したり*2、きちんと多様な絶景をアニメにとりこんでいて、絶叫マシン的な娯楽としてよくできている。
アニメオリジナル展開として、宇宙空間のスリルを生身で味わう展開も素晴らしい。のび太が太陽に行くという無茶を批判したドラえもんが、たっぷり宇宙の恐ろしさを語った後、だだっぴろい空間で無音の恐怖がつづく緊張感。すでにいくつかのTVアニメで生身の宇宙遊泳は描かれてきたが、単純なスリルを一瞬だけ味わうために日常と地続きな宇宙遊泳というシークエンスは類を見ないはず。


「大予言・地球の滅びる日」は、のび太が解読不明な奇妙な書籍を見つけたところ、スネ夫が予言書だと主張する。そこでふたりは周囲に警告したり、シェルターを自作したりするが……
奇妙な謎が読者に提示されるオカルトミステリ的な発端から、一転して予言が的中したかのように後づけで解釈するバカバカしさを描いた原作を、そのまま魅力をたもったままアニメ化。ただ、すでにノストラダムスの大予言で注目された1999年は過去になったので、アニメオリジナルでマヤ暦に言及したりの改変はあった。
大きなアニメオリジナル展開は、子供だけで山に穴をほってシェルターをつくる情景。のび太スネ夫の温度差がシリアスで、オチを知っている視聴者としてはギャグとして映りつつも、終末物のパロディとしても楽しめた。
シェルターをつくる展開の前提として、ただドラえもんがデートに行っただけの原作と違って、今回のアニメ化ではタイムマシンが消えてしまっていることもうまい。デートの前に天候を心配するという原作描写を利用して、自然に納得できる真相を提示できていた。
ひとつだけ残念なのは、原作通りの出木杉の台詞が、ちょっと早口で浮ついて感じられたこと。リニューアル後の出木杉は声優にアナウンサーが起用され、どこまでも落ちついた優等生の原作とは違って、生意気なキャラクターという側面が強調されている。もっと冷静に諭すように否定するからこそ、のび太を絶望につきおとす描写として成立していたのだが。

*1:後半は田中薫と共同。つまり元動画工房回か。

*2:コンテの鳥羽明子は初参加。スタジオジブリ作品の動画スタッフ出身で、シンエイ動画では『新あたしンち』のコンテをローテスタッフとして担当。