今回は原作初期を、やや感動よりに描写を足しつつ大きな流れを変えずアニメ化。雰囲気の改変には原作ファンから異論が出るかもしれないが、前後半ともに演出作画の完成度は高かった。
コンテ演出は八鍬新之介。佳作だった7月の登板回*1と同様に、情感ある世界を描きつつ、前後半で一貫した流れを感じさせてくれた。パパの子供時代の記憶が、のび太の現在にまで受けつがれているという描写を続けて行うことで、家族関係に奥行きが生まれる。
Aパートは、パパが回想する子供時代が、情感ある背景美術で描かれていて美しい。おかげで、暴走せざるをえない感情を抱えているのかなと想像できる余地が生まれた。どちらかというと原作ではパパの暴走が笑える回ではあるのだが、これはこれで良い。
さらに、今となっては違和感がある原作通りにのび太が練習している風景も、パパの回想場面とそっくりの構図で描写。時代を超えて家族の絆が感じられ、映像的な説得力を作り上げていた。
メスのウマタケが登場する描写は尺稼ぎに感じられたが、原作以上のドタバタオチに繋がったので、これもこれで良い。
太陽を背にしたウマタケの登場カットも、無駄に格好良くて楽しい。
Bパートは、虫の声を都会の子供達が楽しもうとする話。原作に対する感慨となるが、少なくとも最近は環境に適応した昆虫がいるので、大都会でも虫の声を聞けるようになったという。わりと虫の声を日常的に、今現在も窓から聞いている者としては、ちょっと脳内美化しすぎかもと思ったりも。
さて、原作通りにタイムマシンで過去へ戻った時、先述したようにアニメオリジナルで子供時代のパパを見せる。さらにファンタグラスの描写を足し、家族との繋がりを描く。そうしてパパと重ね合わせつつ、人間の勝手で虫を現代に連れていきはしないという決断へ説得力を与える。個人的には、長く語らず秘密道具も使わず、のび太の心情変化をコマの行間で処理した原作展開が好みではあるが、アニメオリジナル描写も悪くない。
オチは原作通り。ドタバタだが、虫の声を美しいと思って価値をつける人間の勝手さを風刺する内容でもある。虫の声が求愛という理科知識を教えるアニメオリジナル描写と合わせて、今回は地味に社会派で、かつアニメとしても楽しめた。