「未来の町にただ一人」は、スネ夫やしずちゃんだけでなくジャイアンも旅行に出かけ、夏の街でのび太はひとりぼっち。そしてなぜかあわてているドラえもんを追いかけ、のび太は未来の街へ……
2006年に映像化された短編のリメイク。前回後半*1と同じ善聡一郎コンテ演出で、同じように大塚正実が原画に。
時代が変わり技術が発展しても人の営みは同じようなことのくりかえし……という藤子F作品らしい文明批評SFを、夏休みにあわせるように放映。
大幅な描写の追加こそないが、かわりにのび太がひとり街をさまよう場面に尺をつかって、映画『アイ・アム・レジェンド』のごとき孤独感を強調していた。特に現代パートで空き地の前にたたずむカットが良い感じ。「インベーダー」との戦いも、遮蔽物に隠れたりして西部劇的な面白味があった。
もちろん現実には新型コロナ禍の拡大により自由な旅行、特に外国へのそれは大変に困難な状況にあるわけで、物語と比べて齟齬を感じるところではある。しかし逆にいえば、ほとんどの子供がのび太に共感しながら視聴している状況にあるとも考えられるかな。
「ハチにたのめば何とかなるさ」は、服を汚しては母にしかられたのび太が、次は許さないと宣告されて買い物に出かける。しかし子供と衝突して、さっそくアイスクリームで汚れることに……
第二原画は複数いるが、中本和樹一人原画。小倉宏文監督コンテで、今回もサブタイトル前に小さなアバンタイトルがつく。
いつものように失敗をくりかえして物語がはじまるわけだが、秘密道具をつかう余裕もなく三度目の正直をねらってさらに失敗する構成は他にない*2。さすがにドラえもんが秘密道具で陰からフォローして、それを知らないのび太は珍しく最後まで助けられて後味よく終わる。
今回単独で見れば構成そのものは難題から救済という単純さだし、秘密道具の機能も他人を恐怖させて追い立てるように誘導するだけ。しかし今回のようなエピソードがあること自体が、助けられてから調子に乗って失敗するようなパターンが多い作品全体から浮いて、良いアクセントになっている。
*1:hokke-ookami.hatenablog.com
*2:アニメオリジナル描写は、服を汚すものにペンキがくわわったり、ジャイアンとスネ夫が買い物カバンをうばうのではなくひろうように変更したことと、買い物のタイミングをタイムセールにあわせたアレンジくらい。