法華狼の日記

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世田谷区長の保坂展人氏がツイートした6月末期限のワクチンが、なぜか「デマ」あつかいされている件について

キャンセル分のワクチンを区役所職員に接種するよう世田谷区がマニュアル化しているらしい件のあれこれ - 法華狼の日記

世田谷区は区長の保坂展人氏もツイッターで積極的に情報発信しているし、先に意見しても良さそうに思うのだが*3。

 *3:先月の時点でPCR検査の「偽陽性」をおそれて、小学生の陽性者を見つけた世田谷区の検査を問題視しているので、個人的な不信感があるのかもしれない。

上記の件について、ちょうど補助線になりそうなTogetterがあった。はてなブックマークも多数集まっていて、まとめに同調するコメントも多い。
togetter.com
しかしTogetterのタイトルにもなっている情報共有だが、報道されている自衛隊システムの稚拙さや*1、共有されるという記録システムの入力不具合を思うと*2小林史明氏の説明を信頼することも難しい。


ワクチン接種記録システムVRSでデジタルに記録は自治体へ共有されます。どのような説明が実際に行われたか確認しますが、紙で送られることはありません。

そもそも小林氏も「どのような説明が実際に行われたか確認します」とツイートしており、特別区長会において保坂氏の要約した説明がなかったとは断言していない。


さらにTogetterには、ワクチンの期限を憂慮する保坂氏を「デマ」と断言するツイートもひとつ収録されている*3


ある機関から、ファイザー社のワクチン期限が「6月末」で、そこまでに打ち終わらないと使えなくなるという相談を受けている。いったい、出荷はいつだったのだろう。


医療従事者の方からデマの指摘が相次いでいますが、それらの画像の一部をまとめました。
これで完全にこのツイがデマであることが分かります。
世田谷区長という立場を利用してこうしたデマを流すのは非常に悪質ですし、通報してもいいと思います。

この話題については、先行してまとめられているTogetterも紹介されている。そこでは「伝聞」と要約され、世田谷区の区長の責任でやるべきことと批判されている*4
togetter.com
しかし、すでに7月期限のワクチンが接種されていることは、6月期限のワクチンが全て接種された傍証にはなるとしても、「デマ」と断言できる証拠とまではいえない。
そもそも保坂氏が引用しているツイートは下記のとおりで、全てのワクチンが接種されないまま期限が近づいているという報道内容ではない。


ロイター通信は、日本国内に到着したワクチンは2800万回分に達したが、接種が完了したのは15%程度の400万回超で、約2400万回分が使われないまま残っており、接種ペースは「遅いままだ」などと批判的に報じました。

実際にツイッターで接種情報を集めていけば、6月期限のワクチンを5月8日以降に接種しているツイートも複数ある。これは必ずしも期限順でワクチンを接種していないことの証拠だ。

それでもできるだけ期限切れが近いワクチンから接種されていると期待したいが、いまだ接種がとどこおっている地域もあることが西日本新聞に報じられている。
“放置”された医療者ワクチン 配送手配役の業者さばけず|【西日本新聞me】

2回目まで終えたのは7日現在、約5万2千人で、希望者約21万人の25%にすぎない。県によると、委託を受けた広告代理店の情報集約、手配業務が追い付かずワクチンの行き場が決まらないままになっているのが原因という。

地元の中小病院やクリニックの医師や看護師、薬局の薬剤師、消防署の救急隊員用のワクチン約4千回分は、4月中旬から冷凍庫に保管されたまま。委託業者から一向に連絡がないため業を煮やし、電話をかけてもつながらないという。

 同市の別の拠点病院でも、4月上旬から中小病院向けの約7千回分を保管。連絡待ちの状態という。「医療機関クラスター(感染者集団)を防ぐためにも一刻も早く打つ必要があるのだが」


ツイッターの一部では、多数の反証により保坂氏の「デマ」が確定したあつかいになっているようだ。
一例として、保坂氏のツイートを「事実」ととらえている「偽トノイケ☆ダイスケ(久弥中)@gannbattemasenn」氏と、「デマ」と反論するツイートをいくつか記録しておく。


いや、だから実際にこういう六月末の奴があるって言う人も居るんですけどね。こっちの証拠は無視なんですか?つうか、7月末の奴があるという証拠で6月末のものが存在するという証拠を潰せると思っているんですか?


キクマコは「ワクチンの6月末期限切れを指摘した(これ、事実だったよね?)保坂さん」に対して「ワクチン接種が成功しそうだから面白くないと思っている」とか「笑うんじゃない!非難するんじゃない」とか、アホ左翼みたいな物言いが増えて、流石自称左翼っていう感じだ。


「6月末期限切れ」はデマですよ


なぜ、Twitterでだけ指摘され、かつそのtweetの返信で実際ワクチン射っている医師からたくさんの否定報告がされたことが、事実ということになっているのだろう。アホ右翼の方?


「事実だったよね?」じゃねーだろ(笑)。
何をサラッと大嘘吐いてんだよ、油断も隙もねーな(笑)。
山のように反証のリプが付いたデマをサラッと事実とか言い張るの、図々しいにも程があるなぁ。
こいつ、ベートーベンに祟られてしまえばいいのに。


そして保坂氏のツイートを「他人事、メルヘンのような情報発信」と批判する維新会派区議の桃野芳文氏が、委員会でとりあげると副区長から回答をえたという。
世田谷区長の意味深な情報発信は何の為?区民の不安を煽り自身に注目を集めようとしている風にも感じます。これはいけない。 | 世田谷区議会議員 桃野芳文

副区長からの答弁を要約すると以下。

・東京都が医療従事者の先行接種のために配分したワクチンのこと。受ける側のペースが、それぞれの自治体で違いがある。その分が無駄にならないように調整している。

・区として相談を受けており、区の仕事して調整している。その報告が入り区長としての危機感を表明されたと受け止めている。

この答弁をうけて桃野氏は「まったく大袈裟な話ではない」と評して、「もし期限が切れそうなら世田谷区で引き取ります。世田谷区で6月中に打ち切ります。是非世田谷区に下さい」と保坂氏がまとめるべきだったという*5
しかし桃野氏の説明でも、保坂氏のツイートは不用意だったとしても情報として「デマ」ではない。相談をうけて調整に動いていることも認められている。


さらに続報として、テレビ朝日の東京23区への取材に保坂氏も登場し、接種されないワクチンがどこにあるかや、保坂氏の推論する背景をつたえている。
大規模接種の予約開始…ワクチン廃棄も?なぜ|テレ朝news-テレビ朝日のニュースサイト

ワクチンが余っているのは、超低温冷凍庫を備え、1000人以上の医療従事者に接種を実施する東京都が“基本型接種施設”と定めた大きな病院だといいます。
世田谷区・保坂区長:「東京都の予約サイトが2週間という長い期間、予約ができない状態。接種対象者がいるにもかかわらず予約が入っていないという状態が、つい最近まで続いていた。これが大きな背景にあるのでは」
東京都の医療従事者向けの予約サイトは、開設された4月26日の翌日に不具合で停止。今月11日になって、ようやく再開しました。

このテレビ朝日の記事で、保坂氏や副区長だけでなく、都の担当者も期限切れの可能性とそれを把握できていない状態を認めていることがわかった。

現時点で、余っているワクチンについて、都の担当者は「数万回分の恐れもある。全くわからないので、確認を急ぐ」としています。

しかしこの報道に対して、担当者の発言があることを無視したり*6、都の管理下で起きている問題と気づいてなかったり*7、希望的観測だけを根拠に否定するツイートが多数ある。


そしてこれまでの医療従事者向けワクチン総接種回数5,131,157回(令和3年5月14日)

つまり6月末期限のものはとっくに使い切って無きゃおかしいはずです。7月末期限分もこのペースですと来週中にほぼ使い切るでしょう。従って期限切れするという可能性はありません


SNSだけならまだしも地上波全国放送で世田谷区長として言い出してたのか…
不安煽るには適任かもしれないけど、これ今日の世田谷の区民応対する職員ヤバいんじゃねぇの…
静かに済めばいいけど…


クズ区長からワクチン展開の権限を取り上げて、世田谷区のワクチン展開は都の専権事項にすべき。


「聞いている」なんて不正確な伝聞じゃなく、余っているワクチンが有効に活用されるよう区長の権限と責任でもって情報を発信されたらいかがですかね。事実であれば。


世田谷区の広報課が世田谷区と関係ないと言ってた人の話を広める報道ステーション

保坂氏の情報を「デマ」と決めつけた人々が意見を撤回した動きはほとんど見られない*8。少なくとも上記Togetterには最新の情報が反映されていない。
あえて皮肉れば、保坂氏のツイートを不用意に「デマ」あつかいしている側こそ、医療の問題を見逃させて行政の障害になっているように思える。せめて、もう少し考えてほしい。

*1:dot.asahi.com

*2:xtech.nikkei.com

*3:他のツイートを見るかぎり、「空気海@air_and_sea」氏こそがデマゴギストと思わざるをえないが。

一例として、少女像の作者はたしかに在韓米軍轢殺被害者の記念碑もつくっているが、デザインはまったく異なる。こちらのエントリの注記で紹介。 hokke-ookami.hatenablog.com

*4:後述の桃野氏の報告であるように、この紹介されているTogetterの批判の枠組みも誤りなのだが、それについては詳細に説明しなかった保坂氏にも誤解をまねいた責任があるだろう。

*5:しかし冒頭のエントリで書いたように、通常のキャンセル分を区職員に接種する方針が、医療従事者に問題視されている。医療従事者向けで期限がきたワクチンを世田谷区がひきとるとなるといっそう非難されそうだが……

*6:世田谷区の予約拡充政策で前倒しできた舛添要一氏の報道について、「千枚の葉っぱ@1000Happa」氏は「世田谷区民の桝添先生に見限られたんですかw」とツイートしている。

 ここでも保坂氏のツイートで引用されている「前東京都知事国際政治学者の舛添要一さん(72)が18日、新型コロナウイルスワクチン接種予約に挑戦。既に持つ予約枠を大幅に前倒しする日付で確保したことを明かした。」だけを読んで、記事の全文を確認していない疑いがある。

*7:ちなみに世田谷区は人口が多いのに、接種券の配布をとどこおりなく終えたなかに入っている。保坂氏が早期から熱心に動いているためかはわからないが。 www3.nhk.or.jp

*8:今回はテレビ朝日記事にリプライや引用リツイートで言及していないアカウントまでは確認できなかった。そのため見解を訂正している人がいる可能性はある。