法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

中国の海洋進出で日本が蓋になる説明で「逆さ地図」をもちだすのはミスリードじゃない?

ひさしぶりに富山県がつくった「逆さ地図」の話題を見かけた。

日本に侵略する価値はないとツイートした元記者の「昼寝猫@tcv2catnap」氏への反証にもちだされ、小説家の瀬川深氏*1らが疑問符をつけていた。


この「逆さ地図」は富山県が作成して産経新聞などが報じ*2比較文化学者の浅羽祐樹氏や、ジャーナリストの佐々木俊尚氏まで高評価していた。

しかし「逆さ地図」は富山県が日本の重心にあることを示すため、どちらかといえば県の愛郷心をかきたてる目的でつくられた。
環日本海・東アジア諸国図(通称:逆さ地図)の掲載許可、販売について|富山県

「逆さ地図」は、中国、ロシア等の対岸諸国に対し日本の重心が富山県沖の日本海にあることを強調するため、従来の視点を変えて北と南を逆さにし、大陸から日本を見た地図としています。

そもそもが他国の海洋進出を日本がはばんでいることを視覚化したものではない。
ゆえに「逆さ地図」は日本列島の位置こそ島のかたちでわかるものの、中国の海岸線はわかりづらい。

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そこで実際の地図と見くらべると、「逆さ地図」の生みだす意外性に別の文脈もあることがわかる。


今のgoogle地図なら球体で正確に描画されるが、国境が見えづらい。そこで下記フリー画像サイトを利用させてもらった。
中華人民共和国全土地図のフリーデータ

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これを見れば「逆さ地図」はもちろん、よくつかわれるメルカトル図法とも印象が少し変わるだろう。
この地図を「逆さ地図」のように横倒し、海岸線をきりとり、念のため中華人民共和国と対立している台湾の色を変えておく。

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海岸線で日本列島に面しているのは大半がロシアと朝鮮半島だ。「逆さ地図」の印象と違って、中国の海岸線の半分は日本とまったく面しない南方に広がっている*3。地球は丸いので南に行くほどメルカトル図法のイメージより広くなる。
ここで最初に「昼寝猫@tcv2catnap」氏への反論でもちだされた「逆さ地図」を見くらべると、台湾以南の海岸線が切られていることがわかる。

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勝手に赤矢印もくわえているが、右の矢印は本当は一番下くらいまで下げられる。単純に富山県作成のものをミスリードに使うより、さらに悪質だ。


もちろん、地図を見て世界の位置関係を知ることが無意味だとは思わない。地図は球体を無理やり平面化したものなので、普段と異なる図法を見ればイメージと違う世界が広がることもよくある。
しかしこの文脈で「逆さ地図」に意外性があるのは、方向を変えることで中国の国境線のイメージを混乱させ、海岸線がベトナムにとどく途中で切れていても気づきにくいためでしかない。