法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

列車の窓から入りこんだからといって、「朝鮮人」という属性に注目するのが差別だよ

1945年8月20日の広島で、「朝鮮人」が列車の窓から割って入ったというツイートが批判的に注目された。

これは原爆投下前後にSNSが存在したと仮定するNHK企画「ひろしまタイムライン」で、当時の日記や後年の証言にもとづく描写だ*1


こうした「朝鮮人」のふるまいが別の証言にも見られることを、自民党員で元北海道議の小野寺まさる氏が『はだしのゲン』を引いてツイートしていた。

しいたげられていた「朝鮮人」の反動的なふるまいがあったとして、しいたげていた日本側が被害者意識で描写するだけでは、現在につづく差別意識をあおってしまう。
しかし問題は『はだしのゲン』の他頁に前提となる朝鮮人差別が描かれている*2という次元にとどまらない。よく見れば、小野寺氏は自身が紹介した頁をよく読めていないことがわかる。
朝鮮人が割りこむ直前に、食糧を闇で入手しようとする「群集」も、我先に列車の窓から入りこんでいる。バイタリティある主人公たちも例外ではなく、席についている他人の頭上をこえて「ごめんちゃいよ」と列車に乗りこんでいる。


こうした証言は『はだしのゲン』に限らない。
証言にあるように戦勝意識の解放感から傍若無人にふるまった「朝鮮人」が存在したとして*3、敗戦で生活苦におちいった内地の「日本人」も少なからず同じように行動していたのだ。
帝国日本の交通網: つながらなかった大東亜共栄圏』等、日本の鉄道史についての単著もある若林宣氏も、「ひろしまタイムライン」が問題視された直後に指摘していた。

つまり横紙破りしているのはたくさんいるのに、そこで問題視する対象が「朝鮮人」だけというのが、それもまた差別のあらわれというわけ。

*1:NHKによると2009年の手記『激動の昭和を生きて』にもとづくという。ただ「朝鮮人」がここまで戦勝意識でふるまうのは、ポツダム宣言受諾の直後にしては早すぎるという疑問もある。ミズーリ艦上で降伏文書が正式に調印される前で、もちろんGHQも設置されていない。2004年の手記には同じような出来事が11月に書かれていることをid:nou_yunyun氏が確認している。「シュン@ひろしまタイムライン」についての朝鮮人記述と実際の「日記」との比較 - 電脳塵芥 憶測になるが、従軍慰安婦済州島で集めたという吉田清治証言が、時期や場所を改変していたというのと似た事例かもしれない。吉田清治『私の戦争犯罪 朝鮮人強制連行』を読む - 法華狼の日記 そうでなくても、今回の「朝鮮人」のふるまいについては公文書などではない個人の証言や手記が一定の信頼をされるのだな、という不思議な感覚はおぼえた。

*2:このツイートの主人公が、表面的には朝鮮人と日本人をほとんど同じという表現をつかっていて、ちゃんと揶揄として位置づけられているのも興味深い。

*3:そうした「朝鮮人」が鮫島伝次郎のたぐいという可能性もなくはない。また、そうした戦勝意識が敗北した日本人側の鬱屈から強く印象づけられたことも考慮していいだろう。一例として、嫁としてつれかえった朝鮮人慰安婦に対する元日本兵の劣等感と優越感がないまぜになった記録が存在する。