法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ブレイドアンドソウル』第八話と、全体の雑多な感想

MMORPGを原作にGONZOが制作しているファンタジーアニメ。感情からではなく掟にしたがって淡々と復讐しようとする少女と、出会う社会のままならなさを描く。
第八話「空」は、待望の山内重保コンテ演出回。もやがかかったような白く淡い色づかい、クローズアップの連続で描かれる観念的なドラマ。
それが問題意識が行きすぎて観念的になりつつある物語と、結果的にかもしれないが見事に合っていた。


アクション演出も完全に演出家の色に染め上げられている。全体としてスローモーな、部分的なカットの積み重ねで全体を感じさせる。
ブレイドアンドソウル [第1話無料] - ニコニコチャンネル:アニメ

複雑な動きのため、普通なら使わないような意味不明なアングルも出てくる。性的サービスシーンの意図があるならば、こんなに画面をぼやけさせることはない。あくまで連続的な動きの一瞬を切り取るとこうなる。

美女という設定であっても、平気であおった構図をバストアップで入れる。それが奇妙な生々しさを作りだす。周囲の誰も台詞を発さず、BGMも抑え気味。


いっそ最初から山内重保監督作品でも良かったのではと思えるほどだった。
復活したGONZOは制作本数をしぼっていても映像リソースが不足気味。この作品は第四話の橋本晋治アクションなど一瞬の輝きはあるのだが、作品全体を支えられるほどではない。しかし山内重保作品ならばついてくるアニメーターがかなりいる。この第八話でも羽山淳一作画監督を筆頭としたアニメーターが良い仕事を見せてくれた。
また、脚本の問題意識が滑り気味なところも、きちんと映像として支えればやりきれなさの表現につながるだろう。たとえば第五話、ある種の麻薬で生計を立てている村に善意の青年がやってくるのだが、その独善が空回りした無力な顛末は、あたかも善意を冷笑するかのようでもあった。
あらすじ|TBSテレビ:ブレイドアンドソウル 公式ホームページ

天精を強く憎む青年ショウはアルカを用心棒として雇い、村に天精栽培を止めるよう説得を試みる。しかし天精を栽培することでしか存続できない村はショウの説得を聞き入れない。思い通りに事が進まずいらだつショウは、ある計画の実行を決意するが・・・

もっともさすがに麻薬栽培を肯定しているわけでもなく、一方的な善意がしばしば弱者のためにならないという意図は読める。青年が暴力的に善意を押しつけるようになった過去をいっさい描かないのも、わだかまりを視聴者に残すためだろう。しかし逆説に逆説を重ねた結果として、物語の焦点がわかりにくくなったのもたしかだった。
とにもかくにも無力と虚しさばかり描かれつづける物語。それでいて登場人物が固定されていて、いくら顔が広いといっても旅館の女将がどこにでも顔を出すので、世界の広がりが感じにくい。初期の松本零士作品を思わせる、風刺に満ちた旅の寓話だ。


このような物語になったことに、原作ゲームがどれほど関係あるかは未プレイゆれわからない。ただ、冨岡淳広シリーズ構成の名前を見て、その作風なのではないかと想像する。
たとえばGONZO制作の『FF:Uファイナルファンタジー:アンリミテッド〜』でシリーズ構成を手がけた時は、アニメオリジナル展開でまさに『銀河鉄道999』のような各駅停車の寓話を描いていた。最近ではTCG原作の子供向けアニメ『遊戯王5D's』初期や『バトルスピリッツ』シリーズの『少年激覇ダン』以降で、沈鬱であったり風刺であったりする物語を堂々と入れて視聴者を驚かせている。
ゲーム原作の子供向けアニメを多く手がけるためかスタッフ名で注目されることは少ないが、けっこう独特の考えを持っている脚本家ではないかと思う。あまり情報が見つからないが、NHK労働組合でインタビューされている記事を見つけた。子供向け番組についての意識が語られていて興味深いものだった。
http://nipporo.com/interview/pdfs/NHKinterview_017_tomioka.pdf
これからもっとこの脚本家に注目してもいいかもしれない。