法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『リメンバー・ミー』

音楽の道を歩むため、家族をすてたひいひいおじいさん。それ以来、堅実な靴職人一族となったリヴェラ家で、長子ミゲルだけは音楽家になる夢をもって隠れて練習していた。
ひいひいおじいさんの写真のギターが、早逝した名音楽家と同じとミゲルは気づく。音楽コンテストに出場するため、名音楽家の霊廟にしのびこみギターを借りようとしたミゲルだが……


死者の国で見聞を広めた少年が家族と音楽のつながりを知っていく、2017年のピクサー・ディズニー作品。地上波初放映した金曜ロードショーで本編ノーカットを視聴した。
【最新作『2分の1の魔法』公開記念「ディズニー/ピクサー祭り」】『リメンバー・ミー』地上波初放送 『トイ・ストーリー』、『トイ・ストーリー2』も放送!|金曜ロードシネマクラブ|日本テレビ
ハラスメント行為によりピクサーを退いたジョン・ラセターが、最後まで製作総指揮をつとめた最後の作品。正体が矮小な英雄とスケールの小さな戦いをくりひろげるクライマックスは、過去のピクサー作品と同じ。
アカデミーの長編アニメと主題歌で賞をとり、アニー賞ゴールデングローブ賞でも栄冠にかがやいた作品で、たしかにメキシコ固有の文化から生み出された死者の街はビジュアルだけでも楽しい。写真というアイテムで記憶を視覚化しつつ、争奪対象にする物語展開もわかりやすい。
しかし、やはり倒すべき敵を矮小な人格にする傾向は好きになれない。
敵をあらゆる意味で卑劣かつ愚昧に設定すれば、倒すことの爽快感は増すだろうが、葛藤は失われてしまう。音楽のため家族を捨てた高祖父を許す理由が、最終的に家族のもとに戻ろうとしていたが敵に騙され殺されただけというのは、やはりドラマとしては安易ではないか。
高祖父の正体をめぐって、顔が切りとられた写真から二転三転するのは、ミゲルの英雄への思いの変化を描くにあたって良かったが、もうひとひねりくらいはほしかった。たとえば名音楽家の実態はやはり英雄かつ高潔で*1、ただ高祖父は夢破れただけとミゲルは知りながら、それでも夢を見つつづける結末にしても良かったのでは。

*1:高祖父は暗殺されたのではなく急性アルコール中毒で死んだだけで、作詞作曲も別人と発表する直前に事故死してしまった……なんて展開はどうだろう。