法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』ドラえもんがいっぱい/アルマジロン

今回は前後ともアニメオリジナルストーリーで、ドラえもんがひどい目にあうパターン。


ドラえもんがいっぱい」は、映った人間を写真からひっぱりだす秘密道具が登場。そこでのび太は草むしりをさせるため、アルバムからドラえもんをひっぱりだすが、ついでならと大量に出してしまい……
鈴木洋介脚本に佐野隆史コンテ。ほとんど既存キャラクターしか登場しないためか、嶋津郁雄が珍しく作画監督とキャラ設定の両方を担当。
物語は、おそらくタイムマシンで無理やり集める原作短編「ドラえもんだらけ」から着想したエピソード。しかし秘密道具の機能がまったく違っていて、ちゃんとそれを活用した独自性ある内容になっていた。
「写真きゅうばん棒」は遠くから被写体本人をつれてくる道具ではなく、写真に残された情報から人間のコピーを作る道具といったところ。ひっぱりだすための吸盤で肉体を維持しているので区別しやすいし、解除するための秘密道具が壊れたことから商品が入荷されるまでがタイムリミットになる。新発売された人気商品という説明が入荷に時間がかかる伏線になっているのが芸が細かい。
そこからドラえもんがせまい部屋に満ちあふれるビジュアルがまず楽しく、そのドラえもんのび太のためにさまざまな意見をぶつけあうドラマも楽しい。寝不足でドラえもんが狂気におちいっていく「ドラえもんだらけ」と違って、たぶん写真を撮られた時の性格が反映されている描写で、優しさも厳しさも既存のドラえもんキャラクターにとどまっていて、どの主張にも説得力がある。
そして最後の最後にのび太の命の危機を救うため、大量ドラえもんが初めて協力する感動展開になるかと思わせて、商品がとどいて解除が始まる。生気が抜けて人格が消えていくドラえもんの姿が恐ろしくも切なくて、ちゃんと秘密道具の倫理的な問題をうかがわせる描写になっている。


アルマジロン」は、さまざまな理由で傷だらけになるのび太のため、防御力を高める秘密道具が登場。丸くなろうと頭を下げると一瞬で丈夫なボール状になる。のび太は安心して出かけ、ボール形態で遊んだりするが……
伊藤公志脚本にパクキョンスンコンテ。最初はボールのはずみかたに違和感があったが、かなり自由に思ったとおりに動けていくので、その疑問は解消された。服装を反映したカラフルなボールの作画がていねいで、違う形状で移動する街の美術も緻密で生活感があり、物語に求められる映像を作れていたのが良い。
物語そのものも、違う原因で同日に肉体が傷つくのび太や、室内でボーリングをしないようにとドラえもんに怒る野比*1など、原作の描写を細かくひろっているのが楽しい。けっこうな御都合主義を、原作の引用という文脈で許容させる手法でもある。
そこからスネ夫しずちゃんを巻きこんで楽しんだり、ジャイアンをからかったりというパターンが始まるが、ずっとアルマジロへの変身を拒否していたドラえもんの真実が明かされる場面から状況が一転。ドラえもんの場合は顔が露出した形状になる上、なぜかなかなか元にもどれない。そうなる理由はまったく説明されないが、ドラえもんだけがロボットで人間とは体型も異なるし、物語の最初からずっと秘密道具を使いたがらない伏線がはられていたので、そういうものとして理解できた。そこから周囲よりひどい目にあっていくドラえもんが可愛くもかわいそう。
一方、普通のボールと思われてジャイアンとムクのオモチャにされたのび太は、肉体的には傷つけられなくてもオナラをされたり犬の舌でなめられたりさんざんな目に。それでオチかと思いきや、のび太が何をされていたのかドラえもんが推理して、なぜわかったのかのび太が驚く。なるほどボールと思ったままなら、ジャイアンは所有権を主張するため名前を書いたりするかもしれない。

*1:『ドラえもん』うそつきかがみ/十円なんでもストア - 法華狼の日記 なお、今回の脚本家もツイートで言及し、秘密道具自体も「トカゲロン」の姉妹商品という裏設定を説明している。