法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』ねこっかぶり/強~いイシ

土曜日に放映枠を移動しての初放送。2017年リニューアルから監督をつとめた八鍬新之介がいつのまにか劇場版に専念し、大杉宜弘チーフディレクターが単独クレジットされるようになったが、今回から2017年以前に監督をつとめていた善聡一郎がチーフディレクターとして単独クレジット。
OPも変更され、一昨年の映画『のび太の宝島*1の主題歌「ドラえもん」にあわせてデザイン化されたMVに。映画には内容に比べてポップすぎるかなと思っていたが、TVアニメでは壮大さと身近さのバランスがちょうどいい。
新コーナー「スネ夫としげお」は実写の俳優とアニメキャラクターがかけあいながら次回を予告。ちょっと本編にツッコミを入れるコーナーのようでもあり、ていねいに愛情をもって作れば楽しめそう。


「ねこっかぶり」は、自由な野良猫になりたいと思ったのび太に、そう変身できる秘密道具をドラえもんが出してみる。さっそく猫生活を満喫するのび太は、ニャン太郎という野良猫と仲良くなる……
アニメオリジナル秘密道具を使って、日常を異なる視点で見つめ、違う社会を知るストーリー。脚本は高橋悠也で、コンテは氏家友和。
原作短編「オオカミ一家」や2011年の「カワウソのび太の大冒険」に通じる動物変身譚でありつつ、絶滅危惧種とはまた違った動物と人間の関係性を描いた。低い目線から見上げる商店街や、神社で野良猫が集会する情景*2など、レイアウトや背景美術もしっかりしている。
野良猫として気ままにふるまいながら人間としての習慣を捨てないのび太に、親身になって助けてやろうとするニャン太郎のキャラクターがいい。人間社会から盗む描写も野良猫視点になれば面白い冒険譚で、なおかつ嫌悪感が強くない被害者を選んでいる。そうして猫との関係はストレスを抑えつつ、さまざまな苦労や天敵を描いて、猫も気ままなばかりではないと実感できる。
ニャン太郎とは正体を知られず別れたまま終わり、人間となったのび太が最後に救うのが野良猫時に敵対したクロなのも、ただ助けてくれた一匹に同情するのではなく、猫全体へ視野を広げたという感動があった。


「強~いイシ」は、のび太にランニングする決意を守らせるため、一定時間強制する秘密道具が使われる。まず禁酒できない野比父で試験して、のび太も一時間ランニングするよう設定したが……
2008年に映像化*3された原作を、善聡一郎監督コンテで再アニメ化。脚本は伊藤公志がつとめた。
原作や2008年版では禁煙なのに、禁酒になっているアレンジが時代性か。それもアルコールが手放せない依存症というより、高級な洋酒をもらったので一口飲みたいというくらいの描写になっている。
その他は基本的に原作通りだが、良質な作画で細部の描写をつめている。まずグラスにそそぐ洋酒の液体作画が目を引く素晴らしさで、手描き作画で飛びまわりジャイアンと戦いをくりひろげる秘密道具のアニメーションも良好。
秘密道具の時間設定ミスが明らかになる逆転は、CMをはさんで感動的な止め絵演出を使い、落差を強調。そのミスにドラえもんが気づいたのも、遠目で見てではなく必死で捕まえて間近で見た時。のび太の女装がばれたのも、一安心した油断からではなく、スネ夫を登場させて自然に指摘させた。

*1:『映画ドラえもん のび太の宝島』 - 法華狼の日記

*2:何かの児童文学で似た描写を読んだ記憶がうっすらとあるが、具体的なタイトルは思い出せない。

*3:なぜか2011年に通常回で再放送された。 空飛ぶ! 野比家のコタツ/強〜いイシ - 法華狼の日記