法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ジョジョの奇妙な冒険』Adventure.6-報復の霧-

仇敵Jガイルを倒したポルナレフだが、DIOを倒すための旅はつづく。そして霧に満ちた街に宿泊することになった一行は、Jガイルの母親エンヤから仇敵として狙われる……


2000年から前半部をアニメ化するためリスタートしたOVAの、最終巻の一巻前。2001年9月に発売された。

この巻だけ、同時代のサンライズ作品で腕をふるっていた山中英治が監督としてクレジット。コンテ演出も担当している。
作画監督も、サンライズ作品でハイレベルに整った絵を生みだしていた植田洋一が担当。ちょっと予想外のスタッフワーク。


今巻は邪悪な敵DIOが読書をしている描写が、2008年ごろにイスラム教関係で問題視され、DVDの出荷停止にいたった*1
ちらりと見えるアラビア文字の文章が、コーランから引きうつしたものであるらしく、それが冒涜的だと見なされる恐れがあるという。
もちろんDIOがアラーを信仰している描写でも、逆にイスラムを蔑視するような描写でもない。はっきりいえば、何らかの文章が描かれているかのように波線でも引いておくか、なんなら白紙でもかまわないくらいの場面だ。
日常描写にその舞台にあわせたディテールを加えようと手間をかけて、それが逆に他者の信仰を傷つけかねなくなったという残念な事例だ。


ただ、逆にいえばそうした細部までスタッフがこだわろうとしていたことも間違いない。事実として今巻の絵作りは、2000年のリスタートシリーズでは最もていねいに作りこまれている。
山中コンテらしく付けPAN*2を多用して、広い舞台のなかでの登場人物の立ち位置がわかりやすい。多人数がいりみだれながら、視線誘導が明確なので画面のどこに集中しやすいかもわかる。
整った作画で滑らかに動かすカットと、止め絵カットを交互に入れて、それぞれの印象をきわだたせているのもいい。対比されることでアニメーションとして実質以上に動いて見えるし、ホラー色の強い回に求められるタメも充分ある。
地味にメカニック描写も良くて、自動車が発進や停止でダンパーが上下する描写など、同じ山中演出の『ガサラキ』第3話の戦車を思わせる。


物語の大筋は原作通りだが、エンヤに原作とは異なる姿を設定することで、リスタート版のラスボスになるべき風格が生まれている。
『ジョジョの奇妙な冒険』Adventure.3-銀の戦車&力 - 法華狼の日記

すでにラスボスのDIOを倒すエピソードまで作られた以上、前半までのOVA化にはそれなりに倒すべき存在感の敵を新たに作らなければならない。それを原作からアレンジして印象づけ、うまく関係性を当てはめた。

また、単純に原作の老婆姿を無かったことにするのではなく、何らかの特殊能力の関係と感じる描写にもなっている。つまり前巻から今巻までのエピソードに登場するはずだった敵エンプレスの設定を、エンヤに集約したともとれる。
なるほど原作の展開では、主人公たちを騙しながら倒そうとする敵女性というキャラクターが短期間でかぶっていた。今回のアレンジはテンポを良くするためにも悪くない。

*1:https://www.shueisha.co.jp/info/index_j.html

*2:ここではカメラが人物を追って動く演出を指す。