少し前、truetomb氏による下記ツイートを見かけて、いささか驚くと同時に感慨深く思った。
「司馬史観」って司馬遼の小説を史実だと思ってる人をバカにするときに使う言葉だと思っていたけど、崇めるときにも「司馬史観」って言うのか。
— 真塚なつき (@truetomb) 2018年11月21日
「司馬史観」って司馬遼の小説を史実だと思ってる人をバカにするときに使う言葉だと思っていたけど、崇めるときにも「司馬史観」って言うのか。
「歴史修正主義」と同じように、自称が蔑称に転化しただけでなく、もともと自称であったことすら一般には忘れられていたわけだ。
かつて、新しい歴史教科書をつくる会と、その源流となった自由主義史観研究会は、司馬遼太郎作品の歴史認識を現実にとりこもうとしていた。司馬作品の明治観を批判する斎藤美奈子氏の記事を紹介しよう。
【第94回】明治150年にあたり、「司馬史観」を検証する|世の中ラボ|斎藤 美奈子|webちくま
私は忘れない。歴史修正主義の発火点ともいうべき藤岡信勝+自由主義史観研究会『教科書が教えない歴史』が〈私たちの考えでは亡くなった司馬遼太郎さんの「司馬史観」も自由主義史観と同じ立場にあります〉と巻頭言で述べていたことを。
自称的に用いている実例として、ちょうど保守派に転向した時期の藤岡信勝氏が、そのまま司馬史観を賞揚するタイトルで授業改革案を編集している。
- 作者: 藤岡信勝
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- メディア: 雑誌
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それでも上記ツイートだけならば一個人の認識にとどまるが、能川元一氏による下記ツイートには、新鮮な味わいがある。
初期「つくる会」の主張を思うとこのやりとりは本当にジワる。 pic.twitter.com/dJ2gBklLEp
— 能川元一 (@nogawam) 2019年2月13日
よりによって、新しい歴史教科書をつくる会の公式アカウントが、史実よりの立場から司馬遼太郎作品の虚構ぶりを指摘している。
・坂本龍馬は亀山社中発足に立ち会っていない
— 新しい歴史教科書をつくる会【公式】 (@Tsukurukai) 2019年2月13日
・高杉晋作は徳川家茂に「いよぉ征夷大将軍」と声をかけていない
・ドイツ軍人メッケルは関ヶ原布陣図を見て「西軍の勝ち」とは言っていない
・乃木希典への一面的な評価
などなど。
少しはご自身でも調べられたらどうかと思います。 https://t.co/acPZYQ1mis
・坂本龍馬は亀山社中発足に立ち会っていない ・高杉晋作は徳川家茂に「いよぉ征夷大将軍」と声をかけていない ・ドイツ軍人メッケルは関ヶ原布陣図を見て「西軍の勝ち」とは言っていない ・乃木希典への一面的な評価 などなど。 少しはご自身でも調べられたらどうかと思います。
反論されているnonbiriking氏のツイートへさかのぼると、作品映画化の報を受けて、つくる会アカウントが反応していたこともわかる。
こういうのは具体的に言って頂きたい。坂の上の雲ひとつとってもそうだが、明治=暗黒時代かのような史観全盛の時代に一石を投じたのは間違いなく司馬遼太郎。国民に歴史への関心を呼び起こすには貴会の百倍役立っていると思いますが。司馬のおかげで迷惑を被っていると言わんばかりの態度はどうかと。 https://t.co/zeNbCZzXDI
— nonbiriking (@nonbiriking) 2019年2月12日
こういうのは具体的に言って頂きたい。坂の上の雲ひとつとってもそうだが、明治=暗黒時代かのような史観全盛の時代に一石を投じたのは間違いなく司馬遼太郎。国民に歴史への関心を呼び起こすには貴会の百倍役立っていると思いますが。司馬のおかげで迷惑を被っていると言わんばかりの態度はどうかと。
『峠』に続いて『燃えよ剣』の映画化も決まり、平成の終わりとともに司馬遼太郎ブームが来てるのでしょうか?
— 新しい歴史教科書をつくる会【公式】 (@Tsukurukai) 2019年2月12日
司馬氏の小説の内容の全てを史実のように信じこんでいる方は未だ少なくなく、その国民への影響力は歴史教科書に関わる中で大きな壁のように感じることもあります。
司馬氏の存命時から比べ、歴史研究は進展しているわけですから、映画化に当たっては原作の魅力を生かしつつも最新の研究成果が一定程度反映されると良いなと思います。
— 新しい歴史教科書をつくる会【公式】 (@Tsukurukai) 2019年2月12日
『峠』に続いて『燃えよ剣』の映画化も決まり、平成の終わりとともに司馬遼太郎ブームが来てるのでしょうか?
司馬氏の小説の内容の全てを史実のように信じこんでいる方は未だ少なくなく、その国民への影響力は歴史教科書に関わる中で大きな壁のように感じることもあります。
司馬氏の存命時から比べ、歴史研究は進展しているわけですから、映画化に当たっては原作の魅力を生かしつつも最新の研究成果が一定程度反映されると良いなと思います。
念のため、司馬作品における明治像の明るさは、あくまで昭和の暗さをきわだたせて批判する演出であった*1。それゆえ戦前戦中の全体を美化しようとする自由主義史観といずれ衝突することは当時から予想されていた。
しかし、いくら内部対立をくりかえして教科書保守化運動においても傍流になったとはいえ、つくる会が司馬史観を大きな壁と表現するようになるとは思わなかった。こうして歴史は「修正」されていくのだろうか。