犯罪組織の暗殺者として育てられたスクヒは、師の復讐のため敵対組織をひとりで壊滅させる。
警察に逮捕され、今度は治安組織の手先として訓練を受けたスクヒは、工作活動を始めるが……
『殺人の告白』*1のチョン・ビョンギル監督による、2017年の韓国映画。
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2018/06/22
- メディア: Blu-ray
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前作がストーリーもアクションも濃厚すぎてバランスが悪かったことに対して、今作は簡素なストーリーにのせた膨大なアクションでわかりやすく楽しませる。
ただし、物語をアクションの動機づけとわりきりすぎているので、あまり驚きがないし、くりかえし楽しむには薄すぎる。治安組織の陰謀による主人公のラブストーリーなど、韓国ドラマの表層的なパロディのようで、単純に見ていて面白味がない。時系列を激しく前後させているのも、スクヒにしかけられた罠をひとつ描くためでしかない。
題名に反して、スクヒ自身の主体的な行動が少ないのも残念だった。組織の指示か陰謀で動かされているだけで、かろうじて自身で選んだ決戦すら予定調和。もっと治安組織のシスターフッドを描いても良さそうなところ、誰もが物語の役割りを終えると消えていく。
ただ、映像はアクションに関係ない場面でも作りこんでいるので、物語に邪魔されずビジュアルを楽しむ作品としては悪くない。
まずアバンタイトルの1カットPOVアクションから手間がかかっているが、ここはフェイクドキュメンタリー系統に前例はある*2。わざわざ手元で弾切れを確認する動作*3など、いかにもFPSゲームのパロディで、あえて迫真性は放棄しているかのよう。
重要なのは、こうして手間暇をかけた手法すら、終盤ではなく冒頭で使い捨てていること。その余裕と潔さこそが印象的だ。POVから自由になったカメラは、1カットのまま空間をかけめぐり*4、解放されながらも重力にひきずられてタイトルへつながる。
1カット演出は以降もアクションに限らず多用されている。施設から脱出しようとするスクヒの幻惑感を実感させたり、冒頭のスクヒにしかけられた罠を映像だけで説明したり。もちろんクイックPANや一瞬の暗闇でつないでいるだろうが、計算して手間をかけていることは間違いない。それをいくつもの手法と状況で活用することで、ひとつひとつは斬新でなくても、目新しい印象を作りだして飽きさせない。
クライマックスの決戦についても、突入時はともかく室内での戦闘は邦画でも達成できそうに見えて、アバンタイトルのリフレインから笑えるほど素晴らしい命がけの大活劇へ発展していく。アクションそのもののクオリティに依存しすぎず、けっこうクレバーに観客の期待をコントロールしている。
良くも悪くもアクション描写の宝石箱のような作品で、全体を印象づけるカラーは意外とないのだが、ひとつだけ気になる演出がある。
それは、「窓」を破るというシークエンス。さまざまな動機で登場人物は窓を破っていくが、1カットで情景を変えるために窓をつきやぶって移動するという、ゲームステージ的な演出で特に多用されている。それが状況から逃れようとする登場人物の心情を映しとっている。
そう思えば、スクヒが暗殺を失敗する場面で敵が窓の向こうにいるままなことや、決戦のカーチェイスでわざわざ危険運転をしたことにも、映画演出らしい示唆がある。