広く公開したルールーと愛崎の写真に、写りこんでいた野乃。それを見て、前の学校からエリという少女がやってくる。再会で挙動がおかしくなった野乃に、皆は不思議がり……
シリーズ構成の坪田文脚本で、かつて野乃が守った少女に野乃自身は守ってもらえなかった問題の、いったんの決着がついた。
『HUGっと!プリキュア』第23話 最大のピンチ!プレジデント・クライあらわる! - 法華狼の日記
主人公が劣等生だったことはシリーズで何度もあったし、家族関係で孤独をかかえた作品もあったが、今作ほどの描写はなかった。難しいテーマなので着地させることは大変だろうが、だからこそ今回の挑戦には視聴者としてエールをおくりたい。
もちろんエリが野乃を守らなかったのは再び矛先が向くことを恐れたためで、根本の加害者との決着はまだだが、この作品では描かないままかもしれない。
これまでにできた新しい仲間との記憶をもって過去に立ち向かうという展開は、すなわち被害者自身は戦わなくてもいいし、そして周囲すなわち社会は戦うべきというメッセージなわけだが、実際に描かれたそれが強度をもっていたかというと疑問が残る。
まず、野乃が顔をあわせたくないなら再会しなくてもいいし、直接の謝罪を受けいれなくてもいいということを、もっときちんと説明してほしい。反省をもっての再会でも被害者の負担になりうることは描けているが、友人の介在で謝罪を受けいれることになった。主人公が巨悪にたちむかう作品フォーマットであるためか、それとも子供向け番組として解決まで描こうとしたためか、被害者自身が戦うよう社会が流れを作った構図になってしまった。
薬師寺と輝木のふたりでエリに会ったのだから、たとえば野乃との再会をセッティングするかしないかで意見をたがえて、どうするべきか視聴者に考えさせる展開をしても良かったのでは。ふたりの温度差を描かなかったため、キャラクターが物語の都合で動いている印象もある。そういう意味で、ルールーと愛崎の議論によって野乃の“弱さ”が肯定されたことはとても良かったのだが。
また、野乃個人の友人関係で救われたということは、たまさか個人の善意で助けられたわけで、社会が戦ったこととは少し異なる。友人でなくても助けることはできることや、責任をもつ立場の人間が助けることは一種の義務であることまで説明してほしい。難しいテーマにとりくんだのだから。
物語作品としても、この段階で仲間全員が野乃の過去を共有したことで、ドラマののびしろがなくなった懸念がある。
薬師寺が序盤に距離をつめたのは野乃の過去を教師から知らされていたからという説があったが、実際には輝木と同じように知らなかった。それでもふたりの一方が野乃の過去をなんとなく察していたという描写を入れても良かったと思う。
一方、ルールーは知っている可能性をうかがわせる台詞回しだった。敵だった時に野乃を調査した過去と連続した描写でもあろうか。それが愛崎との会話で温度差を良い意味で生んでいたのだが、今回に共有して終わってしまった。
たとえば今回は薬師寺だけがエリと会って、過去を隠したいだろう野乃の心情を考慮して、以前から知っていたルールーとふたりだけで助ける……みたいな展開にもできたと思うが、今回で無理になってしまった。
今回はエリ自身も被害者だったから簡単に処理したのだと思うが、せめて前後編をかけてもっと深くとりくんでほしかった。新アイテムに変身バージョンアップを組みこんだ展開なのだから、番組フォーマットとしても可能だろう。過去作の新アイテム回は前後編になることがよくあったし、今作でも今回の伏線を入れつつ新アイテムを出すエピソードは前後編になっていた*1。
敵組織にも新アイテムが登場して部下が怪物化させられたり、そこで止められた時間を動かすという番組モチーフが物語テーマと重なったり、野乃のドラマのありきたりさを敵幹部が指摘したりと、良いところも多いのだが、1話におさめられたので使いきれていない。
それに前後編にすれば、エリのチアリーディング描写をきちんと映像化して、助けてもらった野乃に返礼するという物語にできたのではないか。
映像面も、角銅博之演出なのでドラマ部分はオーソドックスにまとめたという印象。序盤と終盤の回想のたたみかけは良かったし、アクションシーンの巨大感はよく表現されていたが。
作画監督は板岡錦で、さすがに全体に力が入っている。ただ、青山充原画っぽい絵柄にハイライトや影を足しただけ*2に見える修正は、逆にやりすぎの印象を受けた。