法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒 season16』第19話 少年A

ホステスが自宅で撲殺される事件が発生。犯人が現場に長時間いて、リンゴを食べ残した謎が残される。そして野次馬を見ていた杉下は、リンゴの箱をかかえていた少年に引っかかりをおぼえる。
一方、現場から去った少年の視点でもドラマが展開。同居している別の少年とともに、ヤクザなトラブルや脅迫に巻きこまれているらしい。しかし事件の全体像ははっきりしない……


トリッキーなエピソードの多い徳永富彦脚本回。今回は複数の視点が並行して異なる事件を関連させていくという複雑な構成が楽しかった。
発端の殺人事件からは、津原泰水『うふふ ルピナス探偵団』の、殺人現場で犯人がピザを食べた謎を思い出す。比べると推理の厳密さは弱かったものの*1、そもそも殺人事件は謎解きの中核にはなく、本筋の事件を露見させたイレギュラーという位置づけだった。
今回の中核は、ふたつの異なる事件に望まずかかわりながら、逃げることも助けを求めることもしない、奇妙な少年にまつわる謎解きだ。そこから、日本が直面するひとつの社会派テーマがほりおこされていく*2。そこから派生して、一般的に賞揚すべきとされる家族愛が、時には重荷となって視野をせばめる問題をもテーマに組みこめていた。
残念ながら1時間枠なので、ふたつの事件については説明不足を感じたりしたが、そこは伊丹や2課が中心となって捜査していたので、特命係の物語の本筋ではないと理解できた。


橋本一監督回らしく、きちんとテーマに合わせた重みが感じられる画面になっていたし、冠城の前歴とかかわりあるテーマなので杉下に活躍が偏らないのもいい。
ひとつひとつの事件を解いて終えるのではなく、そうした事件から逃れられない弱者を支えようと手をのばすドラマとして、感じいるものがあった。

*1:リンゴの箱の真相から考えると、リンゴを食べたのはメタファー的な意味が強かったのかもしれない。

*2:支援者へのインタビュー記事が興味深い。http://www.magazine9.jp/article/konohito/16126/