法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『英雄挽歌・孔子傳』

弟子の子貢と曽参が、亡くなった孔子の逸話を語りつづける。波乱に満ちた生涯を、しずかに悼むように……


儒教の祖となった孔子の半生を、出崎統監督が1時間半の長編アニメとして映像化し、1995年にNHK総合で放映された。
TV アニメ 孔子傳 - allcinema
DVD化こそされていないが、当時にVHSビデオ化されたものが流通し、よく公共施設にも収蔵されており、現在でも試聴は困難ではない。
演出は五月女有作。キャラクターデザインと作画監督は古瀬登で、原画は山本泰一郎と佐藤雄三と原田俊介の3人だけがクレジット。ただしNHKアニメはクレジットされる人数に制限があり、ノンクレジットで他のアニメーターが参加している可能性はある。


あまり感情をあらわにしない性格として孔子が描かれているため、出崎作品らしい暑苦しさは少ない。
全体として、淡々と孔子の生涯を追いかけながら、現代社会にも通じる教訓だけ引いていく。弟子ふたりの回想ゆえ、師への批判が出ないのは自然だが、あくまで偉人の伝記に娯楽を足したつくり。
それでも、古い悪友の原壌に、母の葬儀だからと手伝ってやった逸話は印象的だった。棺桶の掃除をほうりだし、葬儀には似つかわしくない歌をうたいはじめた原壌を、弟子が反発する一方で孔子は静かにいたみ、その歌をなつかしむように歌う。これ自体は史実に元ネタがあるらしいが、さらに落ちぶれた原壌を孔子が叱責する晩年の後日談は出てこず。あたかも旧友のもつ獣性が超人としての孔子をゆるがしたかのように位置づけられていた。
また、覇権をにぎろうとする君主たちの栄枯盛衰を、遍歴する孔子が目撃する流れで、戦記物語としても楽しめる。このアニメの孔子厭戦的な性格なので、あくまで観察者か被害者という位置づけだが、それゆえの諸行無常な雰囲気があった。


ちなみに原作は、台湾の漫画家が日本の雑誌『モーニング』で連載した漫画『東周英雄伝』。作者の鄭問は2017年3月に58歳で亡くなったばかり。
漫画家の鄭問さん死去 代表作に「東周英雄伝」/台湾 | 社会 | 中央社フォーカス台湾
未読だったが、試し読みしたところ複数の英雄を短編で紹介する連作で、孔子は英雄のひとり。やはり出崎監督らしく、大きく原作から内容を変えているらしい。