法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ポセイドン』

豪華客船ポセイドン号が新年をむかえる。しかし楽しんでいる乗客たちとは異なり、操舵室は突然の巨大波への対処でパニックを起こしていた……


転覆した豪華客船からの脱出をえがく、2006年の米国映画。1972年の大作映画『ポセイドン・アドベンチャー*1をドイツ出身のウォルフガング・ペーターゼン監督がリメイクした。
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互いに協力しつつ、決死の脱出に挑む乗客(ジョシュ・ルーカスカート・ラッセルリチャード・ドレイファスエミー・ロッサムら)に、水と炎の恐怖が襲いかかる。

ラズベリー賞で最低リメイク賞にノミネートされるほど酷評された作品で、たしかに残念なところも多いが、期待しすぎなければパニック映画として普通の出来。
上下逆になった船内からの脱出という根幹だけを利用して、また違ったルートとシチュエーションからの生存を描いた小品と思えばいい。エレベーターや吹き抜けのホールといった現代ならではの脱出路は良かったし、脱出しようとした船首が先に沈んでいたという展開も悪くない。燃料や炎をめぐる危機も、旧作では少なかった。


リメイクとして興味深いのは、もととなった古い映画が約2時間あったのに対して、この作品はエンドロールを除いた本編が約1時間半ほどしかないこと。長大化をつづけるハリウッド大作の潮流に、良くも悪くも反している。
おかげでパニックが始まるまでのタメがなく、パニックの途中で停滞する場面もない。3DCGと実物大セットでつくりあげた映像を見せるだけの、あっさりした娯楽作品にしあがった。船の外見においてミニチュアや実物大プロップを使っていないらしく、冒頭では3DCG技術を見せつけるかのように1カット長回しをしているが、それすら映像のフェチズムを感じさせない。
いくら停電とはいえ画面がかなり暗くて、旧作と比べて上下逆の船室というビジュアルがわかりにくいことも、あまり映像にこだわっていないことを感じさせる。せめて噴水から滝のように水が落ちるとか、つぎつぎに天使の彫刻が落下してくるとか、メタファー的な演出くらいは観たかった。


そして人間ドラマが弱いという批判については、むしろ暑苦しいドラマが好きではない観客として期待していたのだが、残念ながらパニック映画としても面白味を損ねていた。
なんといっても、キャラクターの得意不得意に意外性がまったくなく、伏線のたぐいもない。その場その場で思いついて難関をくぐりぬけるだけで、伏線がきいている場面がいっさいないことには困惑させられた。
たとえば十字架を道具として使う場面で、受け渡す男がユダヤ人としての葛藤を口にするが、ただの唐突な軽口でしかない。その時までユダヤ人という設定が語られていなかったし、後々もユダヤ人ならではの知識が効果をあげたり、禁忌が足をひっぱたりしない。
比べると、旧作は脱出者のなかで子供が最も船の知識をもっていたり、神父が最も唯物的に行動したり、足をひっぱりつづけた人物が意外な特技で皆を助けたりしていたものだ。