法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『異世界はスマートフォンとともに。』第1話を見て、ジャンルテンプレート部分をどのようにTVアニメ化すべきだったか考える

近年の潮流に乗ってWEB小説*1から書籍化され、TVアニメ化された作品。
TVアニメ『異世界はスマートフォンとともに。』公式サイト
その第1話が、唖然とするほど起伏のない展開だった。良くも悪くも嫌悪感のたぐいすら持てないまま、画面をながめるしかなかった。


まず原作の冒頭と簡単に見比べた印象では、大きな改悪はないようだ。
しかしアマチュアWEB小説は文字数の制限がないゆえ、設定を思いつくまま書きつらねて、読者は必要がなければ読み飛ばすという受容のかたちがある。設定を確認する必要があれば冒頭に戻って読み返せばいい。そうした部分をそのまま映像化しても、楽しめる導入になるはずがない。映像は視聴者の意思で飛ばしたり戻したりすることが小説よりも難しいからだ。
しかも第1話の範囲は、原作の時点からジャンルテンプレートな導入として処理されている。神様の手違いで死んで異世界へ行くことになり、その補償として特殊な能力や設定を与えられる導入は、すでに商業でもパロディの対象だ。原作の主人公も心を動かされることなく、ただ神様の説明を聞く役割りに徹している。能動的な行動といえば、作品の唯一の特色であるスマートフォンの持ちこみを補償として選んだくらい。
しかも異世界に行った後、第1話については大きな困難がふりかからない。出会った旅人側からあっさり主人公に有利な取引きがおこなわれ、必要な情報も教えてもらう。たまたま出会ったトラブルは、神様からスマートフォン以外に与えられた体力だけで解決するレベルの小ささ。トラブルで出会った少女たちとも簡単に仲良くなり、魔法の情報を教えてもらう。
つまり第1話はジャンルテンプレートにあたる設定を主人公の立場で説明され、主人公が持っている能力をそのまま見せただけ。いうなればゲームのチュートリアル部分だけで終わってしまった。


念のため、ビジュアルやシステムやセリフに新鮮味があれば、チュートリアル部分だけでも楽しめることはあるだろう。
しかしこの第1話で示された範囲では、目新しいビジュアルも設定も提示されなかった。スマートフォン設定も、ただ百科事典的な現代の情報を引きだすだけ。特殊な機械という物珍しさで異世界住人が驚く描写すらなく、神様と通話できる神託的なシチュエーションを物語に反映することもない。トラブル回避における重要性では、神様に与えられた単純な身体能力や魔法能力にすら劣っている。
それでもゲームのチュートリアルであれば、それを終わらせれば本番を楽しめることをユーザーが期待できる。しかしこのTV第1話では、主人公が手にした情報と能力でどのように冒険をするのか、まったく示されなかった。いつ終わるのかがわからないチュートリアルでは、期待感をふくらませることすら難しい。
当面の目標でいいから、主人公の進むべき道が示されていないと、経過した時間を有意義なものと思わせる達成感が生まれない。


あまりの第1話に衝撃を受けて、つらつらと考えている。どのようにTVアニメ化すれば物語らしく楽しむことができたか、と……
たとえば、最初に出会った旅人とトラブルが起きるアレンジくらいはほしかった。異世界住人が主人公に都合よく動くことがゲームのチュートリアル感を高めているのだから。旅人は主人公の衣服だけを高価で買いとり、代わりの現地服の購入も助けてもらう。偶然に幸運な取引きができた主人公だが、旅人を怪しむくらいのサスペンス性は描かくこともできたはずだ。
いっそ、スマートフォンも誤って衣服とともに売りはらわれてしまい、それをとりもどすことを当面の目標にすれば、第1話だけでも主人公のモチベーションが生まれただろう。逆にコメディにしたいなら、代わりの現地服が売ってなくて第1話の主人公は半裸で行動し、助けた少女にも痴漢あつかいされるなんて展開もできる。
少しでも改変するべきでないと考えても、第1話をショートカットする手法などが考えられる。冒険中の仲間とのかけあいで主人公の来歴を説明するもよし、見守っている神様のナレーションで説明するもよし。それなりに乗りこえることが大変なトラブルから物語をはじめれば起伏が生まれるし、冒険の行く末というかたちで当面の目標を設定することもできるだろう。
どうしても仲間を集める導入から始めたいなら、異世界住人の視点で導入してもいいかもしれない。能力の低いキャラクターなら、同じトラブルでも大きな困難と感じて、よりドラマチックになるだろう。そして主人公による助けにまず驚き、その特異な能力に驚くドラマへとつなげられる。現時点の第1話では、主人公の能力すら淡々とした描写で、まったく凄味を感じない。そこから主人公の来歴が視聴者に明かされれば、主人公と視聴者だけが秘密を共有している感覚も楽しめる。