以前から野口裕之記者の評判は低いが、今回の記事は報道としての体裁すら守れていない。
【野口裕之の軍事情勢】韓国の従北サヨク政権が北朝鮮と共謀 南北軍事境界線を対馬北方沖まで下げる (1/7ページ) - 産経ニュース
まず最初に、名言を引く冒頭からして首をかしげる。
シャルル・ド・ゴール(1890〜1970年)も、「名言に例外あり」を思い知らされ、泉下で仰天していることだろう。ド・ゴールは言った。
「同盟などというものは、双方の利害が対立すれば一夜で消える」
しかし、米国と韓国の場合、「双方の利害が対立」してもいないのに、「同盟」関係が「一夜で消える」恐れがある。
野口記者は論理的な思考ができないようだ。“対立していないのに一夜で消える”は、“対立すれば一夜で消える”ことの例外ではない。
文学的なレトリックとしてもうまくはない。もともとの名言が、同盟が消える原因が他にもある可能性を排除していないのだから。
そもそも米韓同盟は今のところ消えていないのだから、論理的な誤りに目をつぶっても「名言に例外あり」を思い知らされる状況ではあるまい。
それでも、この冒頭だけならばレトリックが稚拙なだけだからまだいい。
より大きな問題は「韓国の従北サヨク政権が北朝鮮と共謀 南北軍事境界線を対馬北方沖まで下げる」という記事タイトルについて、記事をどこまで読んでも裏づけとなる情報が出てこないこと。
7分割された比較的に長文の記事において、根拠もなく盧武鉉政権や文政権を「従北サヨク」と評した野口記者は、7ページ目で下記のように主張する。
能力や実力を自覚できぬままとはいえ、主権国家たる矜恃の独善的な発露であれば、それなりに理解はできるが、歴代従北サヨク政権の思惑は別にある。文政権の狙いは、朝鮮戦争の休戦ライン=軍事境界線(38度線)の緩和と対北経済支援だ。
南北軍事境界線緩和後の南北接近で、高麗王朝(918〜1392年)の版図に重なる勢力圏が完成。新たな「軍事境界線」は長崎県対馬の北方沖へと南下を始める。
対馬といえば、元寇(1274年と81年)の緒戦で血祭りに上げられた。侵略軍は漢(中国)人を含む蒙古と属国・高麗(朝鮮)で一体編制された混合軍であった。文大統領が北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と誼(よしみ)を通じる方向性は確実で、「誼の濃度」によって、わが国は鎌倉幕府と同様の国家存亡の危機に直面する。
そう、分割された最後のページまで読んで、ようやく記事タイトルが根拠もなく想像した未来にすぎないとわかる。
まともな報道機関であればせめて予測とわかるタイトルにするだろうし、スポーツ新聞であっても最後に小さくクエスチョンマークをつけて責任逃れするところだろう。
社説でもない長文記事において、取材や情報を整理した形跡がまったくないことも目を疑う。たとえ誤報や捏造や扇動であっても、怪しげな情報源を利用したり、あるいは騙されていたりするものだ。インターネットにしか掲載されていない記事かもしれないし、政治部編集委員である野口記者を批判できる人物が社内にいないのだとしても、限度があるだろう。
ちなみに野口記者は、朝鮮半島が一体になった未来を予測した後、下記のように名言をひきなおして記事の結論としている。
ド・ゴールはこうも言った。
「国家間に真の友人はいない」
特に日韓間は…
起きていないことを確定している未来のように主張して、日韓間をたちきろうと扇動しているのは、野口記者自身ではないだろうか。