法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『JSA』

朝鮮半島を分断する共同警備区域、略称JSAで北側の兵士が射殺された。なぜか軍事境界線上の橋にいた南側の兵士が容疑者となる。
そして中立国監視委員会から韓国系スイス人が派遣され、矛盾する証言をつきあわせて真相をさぐろうとするが……


後の復讐三部作*1で知られるパク・チャヌク監督が脚本もつとめた、2000年の韓国映画。舞台となる板門店は巨大オープンセットで再現された*2

JSA(字幕版)

JSA(字幕版)

誰ひとり足をふみいれることができない場所で死体が発見されるのではなく、現場の兵士が勝手に動いていたことは早々にわかって、証言をてらしあわせながら動機を深掘りしていく。
もっと特殊状況ミステリのような厳密な推理が楽しめるかと思いきや、どちらかといえば黒澤明羅生門』に近いジャンルとして謎解きが展開されていく。プロットだけでなく、「門」の巨大オープンセットが作品を象徴するところも通じている。

そして『羅生門』では関係者の欲望と自尊心のために事態が混迷化していったが、『JSA』では関係者の娯楽と利他心のために事態が混迷化していく。どちらも病んだ社会の生みだした結果だが、前者はドライで普遍性を俯瞰から見つめたドラマとして、後者はウェットで固有性に注目したドラマとして完成した。
JSA』は、境界線を超えた人間関係が、どれほど弛緩して見えても、はりつめた緊張感の上に成立していることを描きつづける。だからこそ、その交歓のかけがえのなさが実感できる。


全体としても、南北が分断された社会でしか成立しえないシチュエーションで、強圧的な国家に対する視点はユーモラスで、短いながら激しい銃撃戦は迫真のアクション……まだ発展途上だった韓国映画のもっていた強みが全面的に発揮されていた。
また、両国首脳が境界線を超えてみせた今こそ、より楽しめる映画でもあるだろう。もちろん娯楽映画としての誇張や改変も少なくないが、軍事境界線のポイントとなる情景を再現して、韓国視点から描いた分断国家の葛藤を体感できるはずだ。