法華狼の日記

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『けものフレンズ』や『この素晴らしき世界に祝福を!2』に対して、「作画低カロリーアニメ」と表現することは適切だろうか?

話題になっているのは、多根清史氏(id:bigburn)によるレビュー記事*1
けもフレ&このすば:「作画低カロリーアニメ」のヒット 業界の“常識”打破 - MANTANWEB(まんたんウェブ)

二つのアニメには「作画のきれいさが最優先事項ではない」という共通点がある。大作とはほど遠い、「作画低カロリーアニメ」の2作品が支持を集めたことは、アニメ業界の“常識”に疑問を投げかけ、ビジネスモデルのあり方を一変させる可能性を秘めている。

念のため、とりあげられているアニメ2作品が映像制作において単純に手を抜いているわけではないと、記事の後半で指摘もしている。

「このすば2」は、より「笑い」に振り切り、ヒロインたちもギャグ顔が増えた。全般にキャラクターの線が減らされていたが、シリーズを通じて一貫性があったので「作画崩壊」ではなく狙ったものだろう。その分「動き」が豊かになり、最終回では「作画がきれい、かつ動く」作りになっていた。

作画については、「けもフレ」は3Dモデリングは簡素とはいえ30体以上も用意され、背景やあまり登場しないフレンズは手描きの絵で済ませる「2Dと3Dの補完」を行っている。

しかし全体を読んでも、記事における「低カロリー」という表現の意味がよくわからない*2


記事は最初に「作画のきれいさ」が求められる近年のアニメ視聴者のありようを指摘した。これはほぼ同意できる。

近年のアニメ視聴者は、キャラクターの絵が崩れたり、整合性の合わない動きがあると「作画崩壊」と話題にする傾向がある。そのプレッシャーを制作サイドも意識して、絵柄が丁寧に統一された作品が増えた。だが、それが当たり前になった現在、きれいな作画は埋没しやすい。

しかし主に3DCGで制作されている『けものフレンズ』は、絵柄の不統一は原則的にありえない。そのためか、モデリングの簡素さを指摘している。

けもフレ」も、最初は「作画の物差し」で測られかけた。舞台は、動物たちが人間のような姿に変化した「フレンズ」が暮らす「ジャパリパーク」。そこに迷い込んだ「カバンちゃん」が何の動物かを調べるために、フレンズのサーバルちゃんと共に旅をする。フルCGアニメだがモデリングは簡素、第1話では失望する声も少なくなかった。

キャラクターのモデリングでいうなら、同じスタッフによる『gdgd妖精s』以降の諸作品と大差があるわけではない。とはいえ、新たに参入した視聴者が不満を感じることはあるかもしれない。1話の映像については、冒頭の追いかけっこシークエンスが長すぎて単調といった評価を見かけた*3
しかし、どちらにしても「作画のきれいさ」とは少し違うのではなかろうか。どちらかといえば「簡素」という表現が正確だと思われる。線を減らすことを「低カロリー」と表現するのならば、たしかに作業工程も全般的に簡略化されるだろうし、違和感はない。


比べると、『この素晴らしき世界に祝福を!2』については、もう少し問題が複雑だ。
多根氏がいうように「シリーズを通じて一貫性があった」ならば「絵柄」ではないにせよ「丁寧に統一された」という評価を受けるはずだろう。
事実、同じスタッフが制作した無印もラフな作画が多用されており、比較すると『2』は全体に神経がいきとどいて作画アニメとしていっそう向上していた。番組宣伝映像を比較しても、『2』の動きがより細やかになりつつ、線の数そのものはさほど減っていない。
「この素晴らしい世界に祝福を!」番宣CM - YouTube
TVアニメ「この素晴らしい世界に祝福を!2」PV - YouTube
ここで公式サイトのキービジュアルで比較すると、『2』は頬の丸みなどでわかるように肉感的になり、目の位置が上がって骨格の立体感が増している。むしろ簡略化とは反対の方向だ。
アニメ『この素晴らしい世界に祝福を!』公式サイト
映画「この素晴らしい世界に祝福を!」公式サイト
『2』のキービジュアルは、無印でキャラクターデザイナー作画監督として全カットに手を入れた第9話の絵柄に近い*4
つまり『2』の作画に対する当初の否定的な評価は、キャラクターデザイナーの絵柄が前面に出て、それが視聴者の嗜好にあわなかったことによる違和感と考えるべきだろう。
肉感的な作画が視聴者の嗜好に反した前例として、オリジナル作品なのに本編の絵柄が視聴者に反発され、EDの簡素な絵柄が高評価された『機神大戦ギガンティック・フォーミュラ』という作品があった。
機神大戦ギガンティック・フォーミュラ | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス
この問題を「カロリー」という表現で評価することが妥当とは思えない。

*1:作画の話題からはずれるが、公式では「かばん」とひらがな表記されるキャラクターを「カバンちゃん」と表記しているのはミスではないだろうか。http://kemono-friends.jp/character/

*2:念のため、作画の制作にかかる手間を想定して「カロリー」と表現すること自体はインターネットで定着しつつある。

*3:私自身は、3DCGという手法を活用し、あえて視点を低く草むらで前方を見えにくくしたPOV的な演出として、好印象だったことをおぼえている。

*4:菊田 幸一 on Twitter: "宣伝コーナー! このすば9話、今日放送です。 放送では最後の担当話数なので、無理を言ってバンク以外は全カット原図からレイアウトを直させてもらいました。 かなり頑張ったのでよろしくです。 宣伝コーナー終わり。" なお、第9話そのものはエロティックな出来事を前面に出したエピソードであり、なおかつ無印内の比較で作画が良好だったため、視聴者に好意的に受けいれられていた記憶がある。傍証として、ブロガーが毎年の印象的な単独エピソードを選ぶ企画において、2016年の2位につけていた。「話数単位で選ぶ、2016年TVアニメ10選」の投票集計結果の雑感 - 法華狼の日記