アイドルになろうとしていたが入り口にも立てなかった少女、東ゆう。そこで東西南北の少女でチームを作ってアイドルデビューさせ、その一員として自らをすべりこませることを思いつく。
東は他校に入りこんで、組みやすく与しやすそうな少女たちを見つけていく。そしてボランティアなどでチームをまとめていき、城を観光案内するグループとしてTVから取材されるまでこぎつけるが……
乃木坂46の高山一実が書いた小説を原作とする、2024年のアニメ映画。監督は篠原正寛、キャラクターデザインはりお、制作会社はA-1 Picturesから派生したCloverWorks。
意外と作画アニメらしさがある。ライブ映像や背景動画に3DCGを部分的に使用しているが、モブは手描きで動かしている。転落時のけろりら*1作画らしい幼い絵柄が、主人公の幼稚さをきわだたせている感じがあって良かった。
物語については露悪的な芸能アニメと知って視聴したが、その情報をもたないほうが印象にのこっただろうし、実際に事前情報に裏切られて興収がのびなかったかわりに熱狂的なファンも生まれたとは聞く。
先入観をもっていると、むしろ明るい作品だと思った。実際のアイドルが書いた小説が原作であるためか、愚かしさは主人公の思惑に集中しており、よくある芸能界の闇などは出てこない。空虚な目標ゆえに現実との差異に耐えられず破綻するまでは、むしろ主人公たちはとんとん拍子にアイドルとして活躍の場を広げていく。
腹黒い主人公のわりには破綻による転落も弱くて、策謀が青春の一ページのように終わったところも興味深かった。実際に何を考えているかを気づかせず他人に光を見せることができればアイドルなのであれば、主人公は利用した仲間たちにとっても多分アイドルだった。
大きな目標を設定する物語において初期配置をつくりだすため、別の思惑を私的にもっている人物が誘導するという手法がある。その誘導者を主人公にすえて、その功罪に向きあわせた作品といったところか。
ただ主人公の初期衝動と初期手段に説得力がなさすぎるのが痛い。
アイドルを光と考えてそれになりたいという衝動はまだ他人に理解されないと自覚して説明する場面があるから許せるし、自分単独ではアイドルになれないのでチームをプロデュースして一員になるまではいいが、そのチームで東西南北をそろえるという手段を選ぶ理由がわからない。それを思いつくフィクションなりの説明描写は必要だろう。
たとえば予知夢で見たという程度でもいい。中盤の未来予想が結末でそれなりに的中することが物語をきれいにしめているので、そういう予知的な描写も偶然との境界線なら許容される世界観だろう。あるいはオーディションに落ちて沈んでいた時に道端で占い師にそそのかされたのでもいい。この場合は主人公の策略が破綻した時に占い師が詐欺容疑で逮捕されたという報道が流れればドラマでも意味をなす。
