法華狼の日記

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計量経済学者の田中辰雄氏による、石破政権支持者は自民非支持者という分析は、全体における自民非支持者の多さを無視しているのでは?

 調査そのものはさまざまな情報がつまっていて興味深い。しかし先に検討すべきところに言及がなかったり、調査に田中氏自身が納得できていなかったりするところが不思議だ。
2025年8月臨界点―石破政権はなぜ支持率が下がらないのか|Tatsuo Tanaka
 もちろん専門家ならば検討したうえで省略していると信じてもいいのだが、それでは不思議に思ったことが解消されるわけではないので、おぼえた疑問を書いておく。

3度にわたり選挙に敗れ、自身が率いる政党の支持率が20%程度しかない政党の党首に対して、総理を辞めなくてよいという声が4割もあるのは異例である。

図2。田中氏自身の説明は次のとおり。「辞任すべきでないと答えた人のうち、自民党の支持者は22.7%だけであった。他は別の党の支持者であるか、支持政党なしである。次のバーは今回の参議院選挙で投票した先であり、自民党に投票した人は21.4%しかおらず、他党に投票した人が56.2%もいる。最後のバーは、いま選挙があるとしたら比例区はどの党に投票するかを聞いたものである、自民党に投票すると答えた人は22.8%だけで。自民党以外に投票する人が49.4%に達する。」
 この図2のメッセージは明らかである。石破首相に辞めなくてよいと言っているのは自民党の支持者ではなく、自民党に投票した者でもなく、これから自民党に投票する人でもない。石破首相に辞めなくてよいと言っているのはおよそ自民党には投票しない人々である。

 全体の支持政党の比率か、辞任すべきと思う側の支持政党との比率を出さないと、この結論は出せないだろう。田中氏が書いている自民支持20%が正しいとすると、石破存続支持*1になるほど自民支持の率が高くなるはずだ。
 事実として、石破存続支持は公明と自民の支持で最も高いことを田中氏も図3で明らかにしている。なぜか「リベラル」の支持率ばかり注目しているが、それよりも自民支持の石破存続支持の比率が高いのだから、あくまで自民不支持の理由に石破政権がそれほど直結していないと読むべきではないだろうか。

立憲民主党が59%というのは、立憲民主党の支持者のうち実に6割が石破首相は辞めなくてよいと思っていることを意味する。共産党ですら辞めなくてよいと考える支持者が53%もいることに注意されたい、立憲民主党共産党という代表的なリベラル政党の支持者の実に半分以上が石破首相は辞めなく良いと考えていることになる。
図3。自民62、公明73、ついで立民59、共産53、維新48の順番に石破存続支持になっている。

 つまるところ単純に、もともとの自民不支持率が相当に高いため、石破残留支持の自民不支持率も相応に高くなった、という側面が大きいのではないだろうか。もし田中氏の理論が無批判に正しいとするなら、石破残留支持者は血液型B型でもなければO型でもなくA型ということになるだろう。もちろんこの想像は血液型の人口比率をそのまま当てはめただけで、相関関係があると主張しているわけではない。
 ちなみに自民非投票者は1609人とのことだが、「対象は18歳~79歳までの1855人」とあわせると、自民投票者は田中氏の調査ではわずか13%ほどになる。単純計算すると自民投票者内の石破支持率は他党投票者よりずっと高いことになるが、年齢ウェイト補正をしていないので他の率と比較することはできない*2


 田中氏自身も、後段で現在の自民は党内左派が残留して岩盤右派が流出したと分析している。つまり現在の自民支持者にあわせるなら石破残留そのものは自民党にとっても妥当ということになるだろう。

1つ疑問が出る。図3の支持政党別の意見を見ると、自民党支持者でも石破首相は辞めるべきではないという意見が62%占めている。現在の自民党は、自分の党の支持者の6割が辞める必要はないと考える首相を、辞めさせようと奔走していることになる。これはなぜだろうか。

 また田中氏は、高市政権であれば自民に投票した率を調査した。そこから高市政権のように岩盤保守に支持を広げないと自民党が支持を失うと推測し、その高市政権を恐れて野党支持者が石破残留をもとめているのだと推測している。

保守内の左派の支持だけでは自民党政権の展望は開けない。政権を取るためには保守層右派の票を取り返す必要があり、そのためには石破首相をより保守色の強い総裁に切り替えなければならない。そこで起きているのが現在の石破おろしの動きと理解することができる。

今は保守票が分裂しているので大きな脅威になっていないが、高市氏のような人が出て保守票をまとめてしまうと脅威が倍加する。それを避けるためには石破政権が続いた方がありがたい。かくして野党は石破おろしをしないし、リベラル陣営は石破首相は辞める必要はないと言い続けていると考えられる。

 しかし上記の推測にはそれぞれ疑問がある。
 まず高市政権であれば保守層からの自民投票率があがるまではいいとして、現在に自民に投票した党内左派がはなれる可能性を無視している。ながらくの安倍政権とそれを継承した政権をへて、もともと右派である石破氏が総裁になってもはなれない左派であれば高市政権でもはなれないのかもしれないが、それでも左派がはなれる可能性は調査するべきだろう。
 次に、野党支持者で、石破政権よりも高市政権の支持率が高くなると想定している人間がどれだけいるだろうか。統計的な根拠をもちあわせていないが、野党支持者のひとりの実感としては、石破政権のほうが自公与党体制の延命につながると考える野党支持者が多い感触がある。もともと高市氏は自民党支持者内でも支持が高いとはいいがたいし、無党派層もふくめた国民的な支持率はさらに低いだろう。
 何より田中氏自身が先に分析と引用で「石破首相が辞任すると、(例えば高市氏など)保守色の強い政権ができかねないので、石破政権が続くことを望むという考えである。これに近い考えはすでに何人かのリベラル論客からあがっており(例えば古谷氏[i])、ここでも4割近い人が理由として挙げている。立憲民主党共産党支持者だけに限ると5割近くまで増える」*3という具体的な石破残留支持者の考えをひきだしている。その考えのどこが「一見すると不思議」なのだろうか。

*1:積極支持と消極支持をあわせて、田中氏が「辞任すべきと思わない」と表現した集団を指す。

*2:全体の政権支持率の注釈で田中氏は「ただし、ウエイトから投票率を外しても数値が多少変わるだけで、結果の大勢に影響はない」と説明しているし、他の比率と比較しても自民投票率がかなり低いことはうかがえるが。

*3:そもそも古谷氏ははてなアカウントがid:aniotahosyuであるように、明確に保守派なのだが……