オールマイトが残されたワンフォーオールの個性をふりしぼって、オールフォーワンを倒した激闘。その時の「次は、君だ」という言葉を自分への継承依頼と受けとる男がいた。
そして実際のオールマイトの継承者、緑谷出久たちがヴィランに解放された犯罪者をとりしまっているところに、オールマイトの継承者を自称する男が飛行要塞とともに出現する……
原作漫画の完結直前、2024年に公開されたアニメ映画。原作者監修と黒田洋介脚本はこれまでどおりだが、シリーズ4作目にして初めてTVとは独立した監督として岡村天斎をむかえた。
TVシリーズとは別個にアニメーター出身*1の監督を立てたおかげで、全体がぐっと劇場作品らしい絵作りになった。この劇場版シリーズでここまで作画修正が全体にいきとどいているのは初めてだし、描線も細めにしてスクリーン映えしそうな繊細さがある。TVシリーズの映像も冒頭などで使用されているが、作中映像として処理したり短いカットですませて違和感を抑えている。
前作*2につづいて手描き背景動画も多用しているが、今作ではデジタル処理や描線の方向性で質感を通常の背景にできるだけあわせて、突出しないように抑えている。手描き作画にかけた手間では、今どき3DCGモブをまったくといっていいほどつかわずに動かし続けていることに感心と感動をおぼえた。特に、中盤に洗脳がとけたモブがメインキャラクターのドラマの背景で微妙に芝居をしているところが名もなき人々なりの存在感を出していて良い。
今作の中村豊は原画だけでなく絵コンテや作画監督としてもクレジット。クイックとスローが混在するメリハリある動きに、このシリーズでは珍しい俯瞰カットなどをまじえて、クライマックスを飾った。手描き背景動画も中村豊パートはセル画調だが、絵面がスペシャルなので物語のもりあがりにあわせた変化として受けいれられる。決着は石破ラブラブ天驚拳のセルフパロディ*3だろうか。
実のところ近年の岡村監督作品は作画が整って動きも悪くないのに物語の起伏が少ないため単調に感じて途中で飽きやすかったが、今作は全体のアベレージが高いところにクライマックスの中村豊がさらに向こうへ突出して、作画アニメとしての満足感があった。TVシリーズより短い映画であることも起伏のなさを感じる時間がなく、完成度の高さを素直に評価しやすい。
物語としては本編のクライマックス直前のトラブルを描いた、典型的な外伝作品ではある。自称継承者のダークマイトは強いだけで薄っぺらいキャラクターだが、ゲスト協力者とのドラマを邪魔せずインパクトだけ残す絶妙なバランス。
あえて敵がヒーロー候補の学生に勝負をいどむところに娯楽を成立させる都合を感じないではないが、ヒーローになりかわるため強さを証明しようとするだけでなく、洗脳と強化で手下をつくる目的も同時にあるので、悪人として最低限の動機の説得力はある。敵が複数の動機をもつだけでなく、違う目的をもつゲストキャラクターと主人公が一時的に協力することで、状況が動きつづけて動機の薄弱さに鼻白む隙をつくらせない。
逆転のきっかけが力押しではなくトンチをつかった作戦になっていて、キャラクターデザインが映像的な伏線になっているところも良かった。
