超常の能力を発現させる個性を多くの人がもち、反社会的なヴィランとそれを公式に止めるヒーローが争う時代。そこに個性を暴走させる技術をもった無個性主義者の団体があらわれ、世界のありかたを変えようとする。
プロヒーローのインターンとして外国に向かった学生のひとり、緑谷出久は奇妙な運び屋の少年ロディ・ソウルを追いかけていた。しかしロディがもっていたトランクは特に犯罪性が見られず、出久は謝罪するのだが……
シリーズ映画3作目にあたる2021年のアニメ映画。今回も原作とは独立したオリジナルストーリーをTVのメインスタッフで映画化した。
見なれない外国を舞台にした逃亡者のロードムービー展開で、情景の変化がそのまま劇場作品らしいスペシャルさを感じさせる。
アクションも、序盤のパルクールと中盤の岸壁戦闘とで、ここまで長尺で手描き背景動画が多用されたアニメは近年では珍しい。いや3DCGが使用できない過去の時代でも、この作品くらい長くて複雑なカメラワークは滅多になかったのではないだろうか。クライマックスのアニメーション表現としてきわまって珍妙な域に達した中村豊作画にも爆笑した。
とはいえ、映像全体で見るとクローズアップが多めで、あまり劇場らしいレイアウトとは感じなかった。今作は監督と寺岡巌のふたりだけでコンテを切っているが、思えば長崎コンテはTVサイズでは見ごたえがあっても*1、あまり劇場作品で感心したことがない。特にこのシリーズの監督に抜擢されてからは、良くも悪くも作画の暴走を抑えてTVサイズにとどめた絵作りにこだわっているので*2、リソースをつかうべき劇場作品でも全力を出しづらいのかもしれない。
内容は、原作の本筋とは無関係に世界規模の危機が描かれるという、いかにもなアニメオリジナル映画。物語もどこかで見た要素だけを組みあわせてできている。
とはいえ、小道具のとりちがえという古典的なネタは、一方のトランクを最初は布につつませておくことで予測できないように工夫。身につけていた小道具に攻撃があたって致命傷をさけられたという古典的なネタも、そもそも致命傷と感じさせないくらいの重みで流して、小道具が壊れたほうが問題であるかのように描写。ありふれた定番を現在でも通用するように工夫はしている。
ラスボスの動機も個性の設定と密接にして、主人公を圧倒するだけの強力さをもたせつつ、個性のない社会を望みそうな説得力を出した。ラスボスの個性は、本編の最強の敵死柄木弔が敵の中心オールフォーワンと出会わなかった可能性のひとつという解釈もできる。対する主人公の奮闘が、作品のメインフレーズ「プルスウルトラ」そのままに、ラスボスを戦闘で負かすと同時に動機を否定する構図になっているところも予想外によくできていた。
主人公の相棒となるロディが限りなく無力な個性で、無個性を求めるラスボスが最強格の個性という構図も味わい深い。
*1:特に『機動戦士ガンダム00』の仕事は全体的に良かった。 『機動戦士ガンダム00』MISSION-23 世界を止めて - 法華狼の日記
*2:話題になった作画デグレードは、ちょうどこの映画3作目と同年の出来事だった。 『僕のヒーローアカデミア』第109話で国外アニメーターが原画を描いたアクションが完成形でおとなしくなった件 - 法華狼の日記
